喫煙はアルツハイマー型認知症の予防になる⁉週刊新潮のトンデモ記事に物申す❗

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喫煙はアルツハイマー型認知症の予防になるという記事がでていますが医師として物申したい。ニコチンが医学的に貢献をする可能性は否定できませんが、少なくともニコチンにアルツハイマー型認知症を予防する、あるいは改善する効果があったとしても、現代医学の利点を有効活用する上で喫煙をする必要はありません。

週刊新潮の「喫煙がアルツハイマーを防ぐ」的なトンデモ医学記事、これは大きな誤解を生むぞ❗

私が週刊新潮を手にして、高山正之さんの「変見自在」をすっ飛ばして他の記事を読んだのは、ここ10年で初めてです。

その記事は週刊新潮2019年1月24日号「愛煙家の胸が晴れた『ニコチン』でアルツハイマーが防げる!」(2019年1月17日発売)です。

週刊新潮は私も取材協力をしたことが何回かありますが、尋ねてみたところ読者層はかなり高めとのこと。

今回のトンデモ記事の対象者は中高年以上の喫煙者、あるいは中高年以上で喫煙をやめようと思っている人、あるいは中高年以上で嫌煙権を強く訴える人たちだと予想します。

せっかく偉い先生方に取材をしたのですから、正しい医学情報を新潮の記者さんは書くべきなのに、

下手すりゃ非喫煙者であっても俺ってちょっと最近物忘れが多いからタバコでも吸ってみようかな?とか認知症気味の家族におばあちゃん、アルツハイマーを防ぐんだって、タバコ吸おうね!とトンチンカンな人が日本国民1億2680万人中に現れてしまうようなミスリードのタイトルと記事の内容に仕上がっています。

愛煙家の胸が晴れた「ニコチン」でアルツハイマーが防げる!

週刊新潮2019年1月24日号の問題記事 愛煙家の胸が晴れた「ニコチン」でアルツハイマーが防げる!

そこで誰に頼まれたわけでもないですけど今回の週刊新潮のニコチンがあるいは喫煙がアルツハイマーを防げる記事のどこがトンデモであるかを解説してまいります。

トンデモ方面の人気者である武田邦彦教授の喫煙は肺がんの原因ではない説はこのブログで、トンデモであることを指摘しておきました。

炎上中❗トンデモ発言を繰り返すニセ医学の伝導者、武田邦彦先生を無理やり庇ってみました。追記あり

炎上中❗トンデモ発言を繰り返すニセ医学の伝導者、武田邦彦先生を無理やり庇ってみました。追記あり

大学教授であってもトンデモさんはいます。武田邦彦教授はいままでも数々のヘンテコリンな発言を繰り返してきました。トンデモ武田教授、逆張り商法とも呼ばれる常識に反する言質、どのあたりが明らかに間違っているかを「喫煙は肺がんとは関係なし」説を例に説明してみます。

それはさておき、ニコチンでアルツハイマーが防げる、との話には元ネタがあります。

喫煙とアルツハイマーに関する今までにわかっている医学的な論文は多数

確かに、喫煙者は非喫煙者と比較するとアルツハイマーになるリスクが低くなるとの医学論文があります。

2000年8月に発表された「Smoking and Parkinson’s and Alzheimer’s disease: review of the epidemiological studies.」(PMID: 10942038)という論文があります。

この論文では喫煙者は非喫煙者と比較してアルツハイマーになる可能性が50パーセントも低くなるとの結論に至っています。

その後、2007年に発表された19のアルツハイマーと喫煙の関連性を研究した論文をメタ解析した「Smoking as a risk factor for dementia and cognitive decline: a meta-analysis of prospective studies.」(PMID: 17573335)では逆に喫煙は認知症のリスクが高くなるとの結論になっています。

さらに2011年、信頼度の高い医学専門誌であるランセットに掲載された「The projected effect of risk factor reduction on Alzheimer’s disease prevalence.」(PMID: 21775213)では喫煙はアルツハイマーの危険因子でなので、予防可能の危険因子の一つが喫煙であるとさえ伝えています。

喫煙がアルツハイマー型認知症の危険因子?

喫煙がアルツハイマー型認知症の危険因子であり、危険因子を除外すると多くの人がアルツハイマー型認知症にならないで済むかを解析したものが上のグラフです。つまり、現時点の医学的な判断としては喫煙でアルツハイマーを予防するどころか、喫煙はアルツハイマー型認知症の危険因子として認識されているのですなぜ週刊新潮の今回の記事はヘンテコな方向になっているのでしょうか?その理由として、多分結論先にありき、だったのでは無いでしょうか?

週刊新潮の読者は記事に登場している偉い先生の発言をしっかり読もう❗

週刊新潮の今回のトンデモ記事の取材を受けられた偉い先生方が述べた内容の要旨は以下のようになります。

ニコチンにアルツハイマー型認知症の予防効果があると可能性が示された→喫煙によるニコチンの効果なんて一切触れていない

記憶のネットワークを破壊するアルツハイマーなんで、神経細胞を増やせばアルツハイマーの予防や症状の進行を抑えられるのが理論的に可能→喫煙のことなんて一切触れていない

金沢大学米田名誉教授

アルツハイマー型認知症を発症すると神経細胞が死んで記憶が消える等の症状が出る→タバコのことなんて一切触れていない

東京医科歯科大学朝田特任教授

偉い先生のだーれもニコチンでアルツハイマーが予防できる、とは断言していない❗だからこの記事のタイトルにある「愛煙家の胸が晴れた」とは言えません❗さらに記事の前の方にある日陰者のスモーカーの胸が晴れるような研究結果をお届けする的な表現は明らかなミスリードってことと断言できます。

ちょっと気になる偉い先生の発言は

脳のニコチン受容体に刺激作用があるので、喫煙が認知症にプラスの方向性が働いている可能性が高い

京都大学赤池明紀名誉教授

このご発言、多分取材をした記者の最初に結論ありき的な質問等に嫌気がさして、記者が喜びそうな結論とも受け止められるトンデモ発言をしてしまったのだと好意的に解釈いたします。

画像

7 ways to reduce the risk of Alzheimer’s disease

繰り返しますが、喫煙はアルツハイマー型認知症のリスク因子であることは明らかです。

そう言えば、以前ある記者さんがはじめに結論ありきのネタをお持ちになって、普段は温厚で紳士的と評される私に瞬時に怒鳴られ、おかえりになったことがあったと記憶しています。

その記者さんって週刊新潮じゃなかったっけ。

ニコチンが医学的に貢献をする可能性は否定できないけど⋯

化学物質としてのニコチンの研究はこれからも推進され、将来的になんらかの病気の治療に役立つ可能性はかなり高いと思われます。

しかし、ニコチンがヒトの体に良い作用、良い効果があったとしてもニコチンを喫煙という方法で体内に取り込む必要性は全くありません。

例えば、アスピリンは今から二千数百年前に医学の父とも呼ばれるヒポクラテスがヤナギの皮を熱や痛みを緩和するために使用していたらしいことから考え出されました。

The Father of Medicine

Hippocrates – The Father of Medicine

科学が発展するにしたがって19世紀になると、そのヤナギの薬効成分であるサリチル酸が抽出され、サリチル酸の副作用を改善して生み出されたのがアスピリンです。

アスピリンの効果を期待して、ヤナギの樹皮をガリガリと食す人っていますか(おっと、自然派を拗らせた人からの反論は受け付けないよ)。

ニコチンにアルツハイマー型認知症を予防する、あるいは改善する効果があったとしても、現代医学の利点を有効活用するには、喫煙をする必要はありません。

ニコチンはトマトやピーマンにも含まれていますからね⋯といって、トマトやピーマンを食べるとアルツハイマー型認知症の予防になる、治療になる、と早合点する自然派を拗らせた方々にもそれなりの問題は大いにあります。

喫煙とアルツハイマーに関しては基礎研究レベルから疫学研究に到るまで百害あって一利なし

週刊新潮では黒澤明監督を喫煙者だが健康であった、頭はさえさえであったと述べていますが⋯黒澤監督は喫煙が危険因子である脳卒中が死因であったことも週刊新潮の中高年読者はお忘れなく。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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