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尿漏れ治療の決定版「尿道周囲注入術」が消え去った理由と今後の対策。

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高齢化社会になると必発である健康問題の一つが「尿漏れ」です。

近年、急激な尿意に襲われつつ尿漏れも起こしてしまう「過活動膀胱」の治療薬が続々と登場し、健康保険での治療が可能となってきたのは喜ばしいことです。しかし、過活動膀胱と診断する上で尿漏れ、つまりおしっこが漏れてしまう病態はマスト事項ではありません(過活動膀胱のマスト条件は「急激で猛烈な尿意を催す」です)。

おしっこを漏らしてしまう尿失禁を主な症状であり、残念ながら過活動膀胱の薬や治療方法では効果が出にくい病気が今回説明していく「腹圧性尿失禁(Stress Urinary Incontinence、略してSUIと呼ぶ)」です。

尿漏れ治療の決定版「尿道周囲注入術」

そもそもお年を召した女性の多くの失禁は混合性尿失禁と呼ばれる状態であることが多いですし、若い女性の尿漏れの原因となる病態の半数近くが腹圧性尿失禁なのです。つまり過活動膀胱の治療方法では治らないのです。

となると、泌尿器科医であろうと内科のお医者さんであろうとカジュアルに処方している過活動膀胱の薬では治療することができない腹圧性尿失禁を主訴とする多くの患者さんに対する治療方法は大掛かりな手術以外には存在しません(※日本においては、との注意書きが必要、その理由は後述)。だから、尿漏れパッドがあれほど大々的にテレビで宣伝されちゃうんでしょうね。

実は非常に効果的に、それも日帰りで腹圧性尿失禁を治療することができる治療方法があったのですが、ある理由にてその治療方法は現在では行われなくなってしまっています。イチ町医者で泌尿器科を専門とする当院としては、短時間で治療が終了しつつ長期間効果を実感できる腹圧性尿失禁の治療をどうにかして復活できないものかと考えております。

腹圧性尿失禁に対する尿道周囲注入術とは?

尿道周囲注入術(periurethral injection of bulking agent)は膀胱頸部に薬剤を注入することによって尿もれを改善する治療方法で、現時点でも日本排尿機能学会及び日本泌尿器科学会が編集して、日本女性骨盤底医学会が協力して作成した「女性下部尿路症状診療ガイドライン」にエビデンスレベル2として掲載されています。

この尿道周囲注入術、言葉で説明するより図を使って説明しますね。

尿道周囲注入術(periurethral injection of bulking agent)

尿道の一部粘膜下に薬を注入して、緩んだ尿道に弁(バルブ)を作ることによって膀胱から尿が漏れ出してしまうことを防ぐ治療です(以前、当院でも多くの患者さんにこの尿道周囲注入術を行ってきた時もこんな感じの説明で十分ご理解を得られたと記憶しております)。

しかし、腹圧性尿失禁に有効で日帰りで治療可能な方法が現在では保険適用外になってしまっています。

尿道周囲注入術が行われなくなった理由はこれ!!

尿道周囲注入術、現時点でも海外では行われているのに残念ながら日本では2009年以降は行われていません。

その理由は狂牛病問題です。

尿道周囲注入術に使用される薬剤が、世界中を恐怖のどん底におとしいれた牛海綿状脳症(Bovine Spongiform Encephalopathy 、略して BSE、一般的には狂牛病と呼ばれた)に汚染されている可能性が否定できないことにより、尿道周囲注入術に使用されていたコラーゲンとして日本で唯一厚労省の承認を得ていたContigen Bard Collagen implantが販売中止となってしまいました。

現在海外、特に米国のFDAではDurasphere、Coaptite、Macroplastiqueなどが認可されて尿道周囲注入術が行われているのに、日本では注入剤を再度見直して認可・承認される動きは少なくとも筆者は耳にしておりません。もちろんこれらの薬剤はBSEの原因となりうる物質は全く含有されていませんので安全です。

尿道周囲注入術の効果は?

TVT (tension free vaginal tape) 手術やTOT (Trans-Obturator Tape) 手術という根本的に腹圧性尿失禁を改善させる治療が現在は主に大学病院を中心として行われています。これらの手術は比較的侵襲が軽度であると言われてはいても、さすがに数日間の入院が必要ですし、膀胱を突き破ってしまったり、血管を損傷してしまうリスクもゼロではありません。また、メッシュ状のテープを入れるために、抵抗感をお持ちの方も少なくないために欧米ではご自分の筋腹直筋膜や大腿の筋膜を使った尿道筋膜スリング手術と呼ばれる治療方法が急増しています。

TVTやTOTより本格的に失禁を治療する手術として「経腹的恥骨後式膀胱頸部挙上術」があります。尿道周囲注入術は経腹的恥骨後式膀胱頸部挙上術より効果や持続期間は劣ると考えられています。

しかし、尿道周囲注入術は大掛かりな麻酔も必要としませんし、少なくとも当院では入院は必要としない日帰り手術で行っていましたので、気軽に治療を受けることが可能でした。もしも、効果が持続しなくても、日帰りで超低侵襲性の治療ですから治療を繰り返していた方もいたと記憶しています。

日本では保険適用外となってしまう尿道周囲注入を再開する理由

筆者は日頃から健康保険の対象となっていない治療方法は眉唾ものである可能性が否定できないと解釈する必要がある、と患者さんに伝えてきました。特にがん治療に関する問題だらけのトンデモ系ニセ医学に対しては糾弾するようなブログ記事も多数書いてきました。「健康保険で行えるがん治療は選び抜かれたエリート中のエリート治療」なんて感じの表現さえしてきました。

腹圧性尿失禁の治療方法として簡単かつ安全かつ効果的な「尿道周囲注入術」なんですが、現時点では健康保険治療の対象外になってしまっています。ちなみに当院で2022年9月より保険適用となったと同時に開始した前立腺肥大症の日帰り手術「経尿道的水蒸気治療(WAVE)」も前立腺肥大症治療のガイドライン上は2022年以前は推奨グレードは尿道周囲注入術と同様に「保留」となっていたんです。

ガイドラインの解説ではエビデンスレベルは上から2番目の2であり、推奨グレードが保留という難しい判断をなされてしまっている「尿道周囲注入術」を当院では利点と欠点を十分に患者さんに説明をした上で健康保険適用外、つまり自由診療として行うことにしました。

腹圧性尿失禁治療薬

日本泌尿器科学会「重要なお知らせ一覧

このような心苦しい判断をした大きな理由は腹圧性尿失禁に処方されてた薬の供給が不安定というか欠品状態が続いていることもあります。

腹圧性尿失禁治療薬が供給されない理由をして、1錠10円もしない薬を作り続けていくことにモチベーションを感じない製薬会社もあったりするかもしれませんし、円安ドル高で原料を現地で買い負けしている可能性もありますし(この場合、製薬会社は作れば作るほど利益が無くなる)、ここ数年の風邪類似症状の感染症多発によって咳止め薬として使用されている可能性もあります(ちなみにこの薬が咳を止める効果があるかについてはエビデンスはスッカスカ)。

様々な点で患者さんの負担が軽い上に腹圧性尿失禁の決め手となる治療方法の選択肢がかなり限定されている状況がいつまで続くのか明確ではありません。その間、日常生活が制限され、いわゆるQOLがダダ下がりの状況を打破するには海外では認められていて、日本でも効果は十分に認められているけど、残念なが健康保険適用外となってしまっている「尿道周囲注入術」を当院は再開することをお知らせします。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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