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「今は血液検査で、癌も見つけられるんですよねえ」「えーっ、それは無理です」が正解です⁉

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医学の進歩はめざましいものがあり、特に診断方法は数十年前とは比較して格段の進化を遂げています。

しかし、現代医学に過大な期待をお持ちのかたも多いようで、採血の際に、「できる検査はなんでもお願いします。特にがんの検査を」とお申し出になる患者さんも珍しくはありません。

腫瘍マーカーと呼ばれる血液検査は、がん治療の目安にであるものが多く、実はがんの早期発見に役立っているかは明確ではないものも多数あります。

腫瘍マーカーを測定することによって、がんの早期発見はかなり限定的です

日常の診療業務で多くの、多分ほとんどの医師が経験したであろうと思われる患者さんとのやり取りで、こんなのがあるはずです。

「採血しますね」

「先生、ついでだから、がんの検査もお願いします」

「えーっ、どんながんが気になるんですか?」

「いやいや、最近は血液検査でほとんどのがんが見つけられるんでしょ」

「⋯・。」

腫瘍マーカーと呼ばれる血液検査でがんが見つかり、早期発見・早期治療につながることはかなり限定的です。

多くの人がここで、「えええーっ」と感じるんじゃないでしょうか?人間ドックでもオプションとして腫瘍マーカーセットなんてものもありますし、区健診でちゃっかり腫瘍マーカーをついでに検査してしまう医療機関もなくは無いようです(当然、その場合は自費でお願いしているとは思います)。

そもそもほとんどの腫瘍マーカーは治療中のがんに対する治療効果を判定したり、切除したと思っていたがんがこっそりと後々に転移していないかなどに使用れるのです。症状が無い方に対して、むやみやたらと採血して腫瘍マーカーを調べたところで、極端な言い方をすると、「百害あって一利なし」的な結果にもなりかねません。

医師が解説しても腫瘍マーカーの意義はこのような記事になってしまう可能性があります

こんな記事を見かけました。

画像

https://mainichigahakken.net/health/article/post-1788.php

その中で取材に応じた医師はこのように述べています。

腫瘍マーカーも絶対的なものではありません。

さらに続いて記事の下の方で

がんと診断されたあと治療の効果を見るときは非常に参考になります。診断時に高かった腫瘍マーカーが下がっていけば治療は有効であるし、逆に下がった後に上昇してきたような場合は、再発を疑う必要がある、という具合です。

とも述べています。

この見解は私をはじめ多くの医師のものと同様なはずなんですが⋯。

取材者の

CEA、CA19-9、SCCの3種類と、男性はPSAを加えた4種類、ですね。

との質問に、医師はなぜか、

はい、できる限りやっていただけると診断の参考になるかなと思います。

と回答してしまっています。

この記事の一連の流れを読むと、言わされてしまった感がたっぷり。

画像

「まとめ」で腫瘍マーカーは絶対ではない、とエクスキュースを入れてはいますけど、取材された医師が本当に伝えたかった内容を強引にタイトルの「がんの発見・治療に効果的!新しい血液検査「腫瘍マーカー」とは」に繋げているように感じてしまいました。

腫瘍マーカーの本当の意義と正しい利用のしかたはこれ❗

引用した記事でもトップにあげられている腫瘍マーカーのCEAに関してこんな記事を見つけました。

実際、「腫瘍マーカーが高い」という理由で病院に来られる方の多くは、「病気」が見つからないまま、通院を終えます。ただ、そういう方々は、「大丈夫でしたよ」と言われても、気分が晴れることはなく、不安という「後遺症」に苛さいなまれます。これは、現代医療の生み出す悲劇の一つと言ってもいいかもしれません。

「腫瘍マーカーの意味、誤解していませんか?」

さらにがんの早期発見・早期治療が可能だと受けとめられている、腫瘍マーカーの代表であるCEAは体調の変化が無くても30%程度増減します、とのこと。

これは順天堂大学のがん治療センターのサイトにもきっちりと書かれています(第5回市民公開講座 質疑応答:「血液検査によるがんの診断」

多くの真っ当な医師の間では血液検査による腫瘍マーカーはがんの治療中であったとしても、増減に一喜一憂することは無く、その他の所見と合わせて判断しているのです。

そんなこんなの血液検査で簡単にがんが発見できそうな腫瘍マーカーですが、採血の際にルーチーンとして行う意味はかなり低くなっていると考えていただいても、大きな間違いでは無いとご判断ください。

私の専門である前立腺がんの腫瘍マーカーPSAの判断は悩ましい

健診や検診や人間ドックを受診する際にオプション的に腫瘍マーカーを調べることについてちょっと批判的な話をしてまいりましたが、私が専門とする泌尿器科においては話が複雑になります。

前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAに関しては大論争が継続中なのです。

以前、論争に関してこんなブログを書きました。

「前立腺がん検診」有効、有効じゃない論争に幕?意外な結果が出ました❗

「前立腺がん検診」有効、有効じゃない論争に幕?意外な結果が出ました❗

日本泌尿器科学会は国民の健康増進に寄与するべく、前立腺がん検診を適切に普及・推進する立場ですが、厚生省はPSAによる前立腺がん検診の有効性について異を唱えています。さらにヨーロッパは賛成の立場なのにアメリカでは反対だったりもします。複雑そうに見えて意外とシンプルなこの構造について解説します。

米国で行われた調査では、PSAによる検診は死亡率を下げない、との結論になってて、ヨーロッパの研究ではPSA検診は有効である、との結論になっています。

私の所属する日本泌尿器科学会は結論的にはPSA検診を強く推奨しています。その理由として、米国の研究の基となったPLCO(正式名称はProstate, Lung, Colorectal, and Ovarian)の対象者のデータ自体に不備がかなり発見されたからです。

悲しことに厚生労働省はを使った検診は無駄と現時点では判断していて、がんセンターも「推奨しない」としています。

しかし、ここでも混乱が生じてしまうので注意が必要です。何も症状が無い人がPSAを検査することについては賛否があるのですけど、泌尿器的な症状がある場合は前立腺がんリスクのある年齢の方がPSA検査を行うことを否定しているクオリティの高い論文を私は目にしたことはありません。

話を最初に戻します。血液検査の際に、「ついでにわかるがんも調べてください」とのご要望に気軽に応じる医師は私としては腫瘍マーカーの意義を十分にご理解していないのかなあ、と考えてしまいます。しかし、最近の私はサービス精神旺盛な医師、と考える大人の対応もできるようになりましたあ(遅すぎかあ笑)。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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