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大橋巨泉さんの死に対する疑問への疑問、「医療麻薬」は怖い薬か?モルヒネが死期を早めたか?

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大橋巨泉さんといえば、即「11PM」を思い浮かべる世代も多いかとお思います。ゴルフ・麻雀・トローリングといった遊びから、UFO・超能力・世界の秘境などを教えてくれたのも大橋巨泉さんの番組でした。

なかにHなコーナーもありましたので、親の足音に耳を済ませながらテレビを見て「大人の世界はたのしそうだなあ」と照明を消して観ていた私です。

その巨泉さんが4回のがんとの闘病の末、2016年7月12日に亡くなりました。しかし、死を早めた原因ががん性疼痛に使用されるモルヒネの過剰投与が原因との記事が見受けられます

大橋巨泉さんの残念な報道⋯医療用モルヒネの過剰投与問題

素晴らしい人生を送ったと思われる大橋巨泉さんの死に際して、最期は寝たきりであり、死期を早めたのは終末期医療を担った医師なんではないか?と読み取れる記事が現代ビジネスに掲載されています。週刊現代およびそのweb版現代ビジネスは数カ月前から猛烈は医療批判記事を掲載しています。その多くは標準医療から見れば当たり前のことであったり、まれにある副作用を大げさに取り上げる、程度の低い記事が多く見られました。

今回はある一定年齢以上のオッサンに取っては憧れのセミリタイアライフを実現した大橋巨泉さんの最期に対する医療側の態度が家族の怒りをかっている、という衝撃的な記事です。

がん治療のモルヒネ投与はなぜ行うか?

がんの疼痛に対してはモルヒネの投与が積極的に行われることが、現代の標準医療です。現代ビジネス 賢者の知恵(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49309 以下引用はこのサイトより) では「独占!巨泉さん家族の怒り『あの医者、あの薬に殺された』~無念の死。最後は寝たきりに」とショッキングなタイトルとともに『始まりはモルヒネの「誤投与」だった』と書かれています。ある医師が大橋巨泉さんに投与した「モルヒネ」が誤投与・過剰投与であり、それが巨泉さんを寝たきりにして、死期を早めたのでは、とこのタイトルから読み取れます。

確かに3度にわたるがん手術と4回の放射線治療に加え、昨年の11月に発症した腸閉塞によるダメージは大きかった。だが、今年の4月に受けた在宅介護において医療機関のモルヒネ系鎮痛剤の誤投与により極端に体力が低下したことも、死期を早めた可能性が少なからずある。もしあの時、モルヒネを大量に投与されていなければ、もっと生きられたのではないか—。

と、記事では、あたかもモルヒネの大量投与が死期を早め、急性呼吸不全となって亡くなったと家族は思っています。

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日本ではモルヒネ等の麻薬系の鎮痛剤は嫌われる傾向があります。

在宅医療を行った医師とは最初からコミュニケーションがうまく取れなかった様子が伺えます。

退院した5日の午後、我が家を訪ねてきた在宅介護の院長は、いきなりボクに「大橋さん。どこで死にたいですか?」と訊いてきた。以前にも書いたようにボクは既に死ぬ覚悟はできていたのだが、「エッ?俺もう死ぬの?」と呆然とした。

この時点で大橋さんは病院で療養するのではなく、自宅で療養するつもりだったようですが、在宅医療の担当医は「緩和医療および終末期医療」を自宅で行う意思を大橋巨泉さん及び家族が持っていたと解釈していたようです。癌患者さんの苦しみにモルヒネを積極的に投与するのが、現代の標準医療ですが「モルヒネ = 麻薬」と考える方も多いので、「モルヒネ⁉」というレスポンスは医療現場ではよく見かける風景です。

がんの痛みを緩和するにはモルヒネが必要です。緩和医療の基本は以下の通り。

  • 夜間に睡眠がとれようにする
  • 安静時の痛みの解消する
  • 動いた時の痛みを除去する

これらが疼痛薬を使用する目標です。また痛みの強さに応じた処方量を定期的に継続して、患者さんの適量を決めます。もちろんその効果を監視しておくことも重要です。とくに緩和医療のポイントは、副作用を恐れてモルヒネの投与量が不十分になることがないようにすることです。

記事には大量の経口薬のモルヒネが残ったとありますが、他の薬、たとえば抗うつ剤やステロイドを処方することもあります。とにかく、痛みの恐怖を除去することに、緩和医療を全力を尽くします。

素朴な疑問ですが、問題となっている在宅専門医は確実に大橋さんサイドにモルヒネとはこんな薬なんですよ、と十分に説明していない可能性があったとしたら、これは医療不信を持たれるのは当たり前です。

在宅医療の担当医と大橋巨泉さん及び家族の不幸

今回の行き違いは両者の最初の出会いにあると考えます。医師はいかに苦しまないで、最期を迎えてもらおうと考え、家族は家で十分に療養をして、やりたいことをやってもらおう、と考えていたようです。記事によれば大橋巨泉さんはがん患者さんの末期の特徴である「悪液質」状態にあったと考えられます。家族は闘病生活によるヤツレ程度に感じていたのかもしれません。

大橋巨泉さんのパフォーマンスステータス(PSと呼びます)が急激に低下した時期が、モルヒネの投与時期と重なっていたことが家族の不信感を強めたようです。大量の鎮痛剤が残っていたのも、徐放性製剤の鎮痛効果が足りない時に、屯服的に痛みに対する速攻性製剤を事前に渡した(レスキュードーズ)をまとめて渡していたと、一般の医師は解釈します。

とにかく、医師サイドも十分に御家族、もちろん本人も含めて、考えたくはないでしょうが「最期はどうするか」を十分に話し合っていれば今回のような誤解は無かったはずです。もし、在宅医も大橋家と十分に相互理解できていないことに気が付いていなかったなら、在宅医として適性がないことにもなります。

最期にみとった医師の「モルヒネ系の鎮痛剤の過剰投与の影響も大きい」との発言は緩和医療・終末期医療を担う医師に対しての理解が足りません。痛がる患者さんには鎮痛剤を増量するしか方法はないのですよ?この記事がくれぐれも現代ビジネスの記者さんの勘違いであってほしいです。これがすべて事実であったなら、大橋巨泉さんも御家族も、そして担当医も救われません。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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