「最近、がんの進行がやたら速い気がする……」
「Aさんも、ワクチン接種後に急に亡くなった……」
「これって、ターボがん?」
そんな“空気”に乗って、また一つ、気になる記事が現れました。
講談社現代ビジネスの連載に掲載された、
『新型コロナワクチンが「がん」の進行を加速させる!?…「ターボがん」が噂されるようになった医学的理由とは』
という記事です。
「ターボがん」って何じゃ!!??
日付からしてこれが森田洋之先生の一連のトンデモ系コロナワクチン批判のはじまりなんじゃないかな。
今日はこの記事に、赤ペン先生が丁寧にツッコミを入れていきます。
本記事の内容
「臨床感覚」と「エビデンス」は別物です
まず登場するのが「Aさんの症例」。
膵臓がんの可能性で、発見から2か月で亡くなったというストーリーです。
森田 洋之先生はこの症例をもとに、
「進行が速すぎる。ターボがんではないか?」
と印象操作的な疑問を投げかけています。しかし、ここには見逃せない論点のすり替えがあることに皆さんはお気づきでしょうか。
•膵臓がんはそもそも進行が早く、見つかったときには手遅れのことも多い
•「短期間で亡くなった」こと自体はワクチン接種と無関係でも起こる
•がんの進行速度には極端な個人差があり、n=1の症例で因果を語れない
つまり、「典型例」と「例外」はしばしば乖離します。にもかかわらず、それを“ワクチンのせいかも”と印象づけるのは、科学的思考ではありません。
「医学的理由」と言いながら、結論はあいまいな印象論
続いて登場するのは、
•SNSで拡散された“ターボがん”という言葉
•宮沢孝幸氏の「スパイクタンパク質とエストロゲン受容体」仮説
などなど。
しかしこれら、よく見ると
📌 どれも仮説の域を出ておらず
📌 データの裏付けや因果関係の検証がない
📌 患者背景や統計的な根拠も不明確
という状態で、
「確たるエビデンスはないが、そう考えた方がつじつまが合う……かも」と“結論風の空気”を作って終わるのです。
つまり、「確たるエビデンスはないけど、そう“感じた”からそうだろう」的な“空気の結論”。これはもう、科学ではなく雰囲気です。医学は科学ではない!!的なことが昔から言われているのですがら、医師たるもの少しでも科学者から「医学は科学だよね」とのお言葉をいただけるように努力するべきなんじゃないでしょうか?
「ターボがん」の初出と拡散の流れを確認してみましょう
そもそも「ターボがん」ってどこから出てきた言葉なのでしょうか?
その起源をたどってみると、思いのほか“科学”とは縁遠い流れが見えてきます。私が調べた限りでは以下のような流れになっています。
1:2022年9月27日ワクチン推進派の有名医師、ファイザーの追加接種が癌を悪化させたと疑う
Famous Pro-Vaccine Doctor Suspects Pfizer Booster Shot Sent His Cancer Into Overdrive
この時点では“ターボがん”なる言葉は使われていません。
2:ファイザーの追加接種が癌を悪化させたと疑うこの医学博士がこの話の根拠として
2021年11月25日に医学専門誌に掲載された「Rapid Progression of Angioimmunoblastic T Cell Lymphoma Following BNT162b2 mRNA Vaccine Booster Shot: A Case Report」を引用した。もちろんこの医学論文では“ターボがん”なる用語は一切使われていないのは当然。
3:2022年7月頃にSNSで拡散
SNS上で“ターボ癌”という言葉が使われ始め、ミーム化。
4: 2022年後半以降、デマ系情報として拡大
反ワクチン系の界隈で拡散し、専門家やファクトチェック機関が相次いでファクトチェックして、その存在を否定。
つまり、「ターボがん」「ターボ癌」はネット由来の非学術用語であり、医学的概念ではなく、“不安を語る言葉”としての機能が強いのです。まあ、ターボがturbo(車等のエンジンを急速に回す)であり、車に興味がない人には「なんじゃろね」的なニセ医学用語ですけどね。
どうしても言いたいことは「それ、医学記事の体をなしてますか?」
森田先生の記事の締めの言葉がかなり気になります。
果たして「ターボがん」は本当に存在するのでしょうか?
確たるエビデンスがないとしても、あると考えるほうがいろいろとつじつまが合うのも事実です。
記事のトーンは一見“医学的考察”風ですが、
よく読むと中身は以下のようになっています。
•感覚的な症例紹介(n=1)
•SNS起源の非学術用語(ターボがん)
•「可能性がある」という推測の積み重ね
つまり、論証ではなく“雰囲気づくり”が主役になっている構造です。
赤ペン先生のまとめ「“がん”と“ワクチン”という不安の交差点に、冷静さを」
「がん」はそれ自体がセンシティブで、個人差の非常に大きい病態です。
そのため、
•たまたま進行の早かった一例
•その患者がワクチンを打っていたという事実
•宮沢孝幸氏の「スパイクタンパク質とエストロゲン受容体」仮説
これだけでは、因果関係を語るにはまったく不十分です。
むしろ、
“信じたくなる情報”だからこそ、冷静に検証する勇気が必要という基本に立ち返るべきです。
赤ペン先生から講談社現代ビジネス編集者及び森田洋之先生に宿題を出しますね
- 膵臓がんの進行速度に“個人差”があること、忘れていませんか?
- 「ターボがん」という言葉を使うことで、読者に“本当にある病名”だと思わせていませんか?
- 医学記事なら、症例よりも統計と因果の分別が先じゃありませんか?
赤ペン先生は“科学っぽさで不安を煽る記事”があれば、しっかり添削していきますね。
よくある質問&ツッコミに赤ペン先生がお答えします!
記事を読んでいただいた皆さまの中には、こんな疑問や反論をお持ちの方もいるかもしれません。
そこで今回は、よくあるご意見に、赤ペン先生が先回りでお答えします!
Q1:「Aさんの症例はたった一例じゃないか。“現場では似た例がある”って意見もあるぞ!」
A:はい、その通りです。現場の医師が「最近こういう症例が増えた気がする」と感じることは、否定しません。ただ、それを一般化して語るには、統計的な裏付けが必要です。
医療は感覚だけで動かすものではなく、感覚を仮説として立て、その後に検証するのが本来の科学的態度です。
Q2:「“ターボがん”って言葉が非学術用語だからって、否定するのはおかしい!」
A:言葉が造語だからといって即座に否定するわけではありません。
大切なのは、「その言葉で何を伝えようとしているか」そして「それがどんな証拠で裏づけられているか」です。
“ターボがん”は、SNS上で作られ、医学的には定義も診断基準も存在しない言葉。
仮説として扱うならまだしも、「あるような気がする」で広めてしまうのは、患者さんの不安に火をつける行為です。
Q3:「確たる証拠がないだけで、“ない”とは言い切れないだろ?」
A:これはよくある「悪魔の証明」ですね。
科学においては、“証明できない=正しいかも”という論理は通用しません。
それを許すと、「宇宙人に操作されているかもしれない」も、「ワクチンが陰謀かもしれない」もすべて成立してしまいます。
科学は、「何がわかっていて、何がまだ不明なのか」を明示しながら進めていく知の営みです。
議論は歓迎、でも“検証なき煽り”はNG
議論すること自体は歓迎です。むしろ、新しい仮説や視点は医療にとっての財産でもあります。
しかし、それは丁寧な検証があってこそ。
ワクチンというセンシティブな話題だからこそ、「不安」を語る前に「証拠の土台」を整えることが、医師としての責任だと私は考えます。