トンデモ医師うつみんの主張をニセ医学バスターが赤ペンしてみた

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※本稿は、公開された言説の妥当性を検証するものであり、個人の人格を攻撃する意図はありません。

科学は主役を作らない、でもニセ医学は誰でも主人公にしてくれる

世間的には「セレブでVIP?」なんて呼ばれることもある私ですが、どういうわけかニセ科学を見かけると赤ペンを握ってしまいます。自分でも不思議です。だって、科学の世界では主役になれないんですよ。

友人の音良林太郎先生がnote(https://note.com/otola_ryntaro/n/n36b32ca9c606?sub_rt=share_sb&utm_content=buffer128a8&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer)
に書かれていました——

「科学の世界ではあなたは主人公になれない」

まさにその通り。どれだけ声を張り上げても、エビデンスは拍手してくれません。どれだけ影響力があっても、RCT(ランダム化比較試験)はVIP席を用意してくれません。科学はとにかく冷たい。全員を公平に扱うだけの、無慈悲な審判員のような存在です。

でも、一歩ニセ科学の世界に踏み出すと……あら不思議。誰でも舞台の真ん中に立てます。今回取り上げるのは、「うつみん」の愛称で知られている内海聡医師の投稿です。

赤ペンその1:「抗がん剤は増がん剤」???は古文書ヒーローごっこ

内海聡医師の投稿(https://x.com/touyoui/status/1957272955102372281)より:

「1988年、米国癌学会で抗ガン剤治療を受けた多数の患者を調べた結果、抗ガン剤は、ガンを何倍にも増やす増ガン剤だと断定。これは今や医薬界では常識ですが、知られては困る医薬マフィアによって一般には周知されていません。」

赤ペン:そんな「常識」は存在しません。1988年に“3000頁のNCI報告書”などというものは見つからず、実在するのは米国議会技術評価局(OTA)の1990年報告書「Unconventional Cancer Treatments』です。因みにこれはPDFで約300頁(トンデモさんは数字を盛る傾向があります)そこには「多くの代替療法は科学的根拠がない」と書かれているだけで、抗がん剤を「増がん剤」と断定する部分は一切ありません。

一次ソース:

Office of Technology Assessment (OTA). Unconventional Cancer Treatments. U.S. Congress, 1990.

アレンジのパターン:

・OTAをNCIにすり替え。

・300頁を3000ページにモリモリ

・1990年を1988年に改変。

・「代替療法に根拠なし」を「抗がん剤は増がん剤」と反転。

赤ペンその2:「未治療の方が長生き」マジック

内海聡医師の投稿より:

「抗ガン剤は腫瘍を縮めるけれど、未治療の方が長生きする!」

赤ペン:これは統計の初歩を無視しています。重症例ほど治療群に入るため、未治療群には比較的元気な人が残るという交絡の問題です。それを単純比較すれば「未治療の方が長生き」に見えるのは当然。雨の日に傘を持っている人が濡れているのを見て「傘は逆効果だ!」と言うようなものです。

一次ソース:

Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group (EBCTCG). Lancet 2012, 2019. などの大規模メタ解析により、抗がん剤・ホルモン療法・分子標的薬がいずれも生存率を改善することが示されています。

アレンジのパターン:

・治療群に重症例が多いことを無視。

・腫瘍縮小(サロゲート指標)と全生存(ハードエンドポイント)を混同。

赤ペンその3:「代替療法の方が治癒率高い」トリック

内海氏の投稿より:

「非通常療法の方が副作用無く治癒率が高いという結論になったのです。」

赤ペン:ここで引用されているOTAレポートは、むしろ「多くの代替療法は科学的根拠がない」と結論しています。決して「代替療法の方が治癒率が高い」とは書かれていません。これは真逆の読み替えです。

一次ソース:

Office of Technology Assessment (OTA). Unconventional Cancer Treatments. 1990.

アレンジのパターン:

・OTAの結論を反転させて紹介。

・「根拠がない」を「治癒率が高い」に置換。

赤ペンその4:Eisenbergレポートの誤用

内海聡医師の投稿より:

「ハーバード大学医学部のアイゼンバーグ博士の1990年度調査によると、教育があり収入が高い人ほど抗癌剤を避け、代替療法を選んでいる」

赤ペン:Eisenbergらの有名な調査は1993年にNEJMに掲載された「Unconventional Medicine in the United States」。内容は代替医療の利用状況調査であり、対象は腰痛・不眠・風邪など一般的な症状。がん治療の有効性を示した論文ではありません。「収入や教育が高い層で代替医療利用が多い」というのは事実ですが、それを「抗がん剤を避けた」と解釈するのは完全なすり替えです。

一次ソース:

Eisenberg DM, et al. Unconventional Medicine in the United States. N Engl J Med. 1993.

アレンジのパターン:

・「利用調査」を「治療効果」にすり替え。

・慢性疾患への利用をがん治療に一般化。

まとめ:科学は冷たい、でも安心

科学は誰もVIP扱いしませんし、主人公にもしてくれません。だからこそ公平で、更新可能で、再現性があります。ニセ科学は誰でも主役にしてくれるけれど、その舞台は張りぼて。ライトが消えたとき、そこには何も残りません。

セレブでもVIPでもなくても、赤ペン一本あれば十分。科学の世界では主人公になれなくても、「ニセ医学にだまされない脇役」にはなれます。そして脇役の方が、だいたい長生きしますし、現実社会ではキャッシュフローも守れます。

これからも「科学的に地味で正しい方」を選んでいきましょう。赤ペンは常にポケットに。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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