PCR、遺伝子、そしてAI

更新日:

2017年、私はあるブログを書いた。

唾液を送るだけで手軽に遺伝子検査、これって本当に信頼できるの??追記あり

唾液を送るだけで手軽に遺伝子検査、これって本当に信頼できるの??追記あり


当時はまだCOVID-19の「コ」の字も見えない時代だったが、
PCR検査の“本質”について、私はこう記した。

PCR検査で採取されるのは、喉や鼻の奥の粘膜細胞──
つまり、私たち自身のDNAそのものだ。

この事実は医学の基礎であり、特別な話ではない。
しかし私は当時、
“検査という形をとったDNAサンプル収集”が
社会的にどれほど誤解されうるか、
あるいは悪用されうるかについて
一歩踏み込んで書きたかった。

だが、あえて書かなかった。
その判断は正しかった。

理由は単純だ。
当時の私は、反ワクチン勢力との消耗戦の真っただ中にいた。
「PCRは陰謀だ」「ワクチンにマイクロチップが」──
そんな荒唐無稽な言説に対処しながら、
正しい医学情報を発信することに精一杯だった。

もしそこで
「遺伝情報の悪用リスク」
という高度な論点を投げ込めば、
彼らは必ず文脈を破壊し、
私の本意とは真逆の方向へ利用しただろう。

私はあのとき、
“正しいことでも、今は語るべきではない”
と判断した。

しかし2025年の今なら、
あの時の“未完の問題提起”を
医学的・社会科学的・AI的に
正確に、誤解なく語ることができる。

だからこの記事を書き残す。

AIの進化が、DNAの“意味”を変えてしまった

2017年当時、AIはまだ「未来の技術」だった。
だが今は違う。

AIは遺伝子データから
・病気発症リスク
・薬剤感受性
・行動傾向
・代謝特性
・老化速度
・疾患クラスター
を解析できる。

しかも「個人情報ガー勢力」が恐れるような
“名前”“住所”がなくても構わない。
遺伝子データそのものが個人を識別する。
むしろ遺伝子の方が名前より“個人情報”だ。

これが理解されないのが今の日本の弱さである。

SNSでは、「個人情報」を
“名前が漏れる”程度の感覚で語る人がいまだに多い。
しかし本当に守るべきは
DNA・医療・バイオバンクレベルの非可逆データだ。

名前は変えられる。
DNAは変えられない。

ここに“危険度の階層”についての理解の欠落がある。

COVID-19のPCR乱立期

日本社会の「危険の感度」がズレている

コロナ禍で日本中に生まれた野良PCR屋。
一部は医療法人でさえなく、
検体の扱いもずさん。
破棄ルールも曖昧。

私は当時から違和感を持っていた。

「個人情報ガー」の人たちは、
問診票の名前や電話番号には過剰反応するのに、
“自分の細胞片そのもの”が
どの国籍の組織に渡る可能性があるかには
まるで無関心だった。

皮肉な現象だが、これが日本の現実である。

実際、海外では
中国系企業がPCRデータを取り扱うことに対し
米国防総省が警鐘を鳴らし、
EUも強い規制を整備した。

データ統治とは本来こうしたものだ。

しかし本当に効率的なDNA収集は“PCR”ではない

ここが誤解されやすいが、
DNAを大量に、合法的に、効率よく集める方法は
PCR検査ではない。

答えは──
自宅で唾液を送る「遺伝子占いサービス」だ。

人々は「病気のリスクを知りたい」という動機で、
むしろ自らお金を払ってDNAを提出する。

データの質もPCRよりはるかに高い。
SNPや多型解析まで可能。
研究利用への同意を取れば二次活用も合法。

アメリカでは軍人に
「遺伝子検査を安易に受けるな」と
国防総省が公式通達を出しているほどだ。

つまり、

2017年に私が直感していた“DNAのリスク”は、
AI時代に入ったことで現実的な国家課題になった。

日本が遅れているのは「守り方」ではなく「理解の仕方」

日本では
「個人情報保護=とにかく出さない」
という昭和的な発想が根強い。

しかし世界標準は違う。
• EU:活用する前提で安全枠組みを作る
• 米国:国家安全保障の観点で保護する
• 中国:国家戦略として活用する

この三者の中で、
日本だけが

“データを活用しないことでリスクが減る”

と信じている。

これは完全に逆で、
活用しない社会は、外からのAI解析の影響に最も弱い。

医療データ、遺伝子データは
今や医療資源であり、
国家資源であり、
AI時代の“石油”である。

医師として、今こそ言語化すべき時が来た

私は2017年に書けなかったことを、
2025年の今なら正確に語れる。
• 遺伝子情報は個人情報の最上位にある
• PCR検体はDNAそのもの
• コロナ禍の野良PCRは日本の情報統治の脆弱性を露呈した
• 遺伝子占いサービスは世界最大のDNA収集装置
• AI時代には医療データこそ国家戦略資源
• 日本社会の“危険の優先順位の誤認”は構造的弱点である

これらは決して“陰謀論”ではなく、
医学・社会学・AI技術・地政学の交差点にある
現実的な課題だ。

ワクチン陰謀論の炎上期にこれを書けば、
文脈を破壊され、
反ワク勢力の宣伝材料にされたかもしれない。

だから私は当時書かなかった。
あれは戦略として正しかった。

締め──未来の医療のために

AIは医療を進化させる。
遺伝子解析も、QOL研究も、疾病予測も、
すべて大きく前に進むだろう。

だが同時に、
私たちの身体情報そのものが、
これまで以上に“価値を持つ時代”に入った。

だからこそ必要なのは
感情的な「個人情報ガー」ではなく、
科学・倫理・公共性にもとづく冷静なデータ理解だ。

私は医師として、
そしてこの混乱の時代を生きる個人として、
未来を守るために語るべき言葉を
2017年からずっと温めてきたのだと思う。

あの時書けなかったテーマを、
今、ようやく書くことができた。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

Affiliated Medical Institutions

主な提携医療機関

一般診療
診療日
月・火・水・金
9:30~12:30/15:00~18:30

土 9:30~12:30
休診日
木・日・祝
受付時間
9:00〜12:15/14:30〜18:15

泌尿器科・内科・形成外科

フリーダイヤルがご利用になれない場合は03-5721-7000

美容診療
診療日
月・火・水・金・土
10:00~18:30

※完全予約制です。ご予約はお電話ください。
休診日
木・日・祝
受付時間
10:00〜18:30

美容外科・美容皮膚科

フリーダイヤルがご利用になれない場合は03-5721-7015

© 2023 医療法人社団 萌隆会 五本木クリニック