おしっこの回数が多い、おしっこが我慢できない、おしっこが漏れてしまう症状はいままで老化症状として放置している人も多かったようです。そのような症状は今では過活動膀胱との病名がつけられ薬で治療が可能となっています。複数ある過活動膀胱治療薬の中で抗コリン薬と分類される薬がひょっとして認知症の原因になっている可能性を示唆した医学論文が登場して世界中の泌尿器科医が自分の処方を見直す事態になっています。
果たして過活動膀胱の薬は認知症の原因となっているのでしょうか?
本記事の内容
国内で810万人いると推定される過活動膀胱、その薬で認知症に⁉
いやー、参りました。近年急増している病気の一つである過活動膀胱(Overactive bladder 略してOAB)治療薬である抗コリン剤が認知症の発症と強く関連していることが先日権威ある医学専門誌に掲載されました→「Anticholinergic drugs and risk of dementia: case-control study」(BMJ 2018; 361 )、抗コリン薬と認知症のリスクに関して研究したものです。
こんな感じで過活動膀胱の啓蒙活動が激しく行われています(苦笑)
抗コリン薬って認知症に関連してているのでは?と以前からので全国の泌尿器科医の間では囁かれていました。
この件が週刊現代とか、週刊ポスト等の週刊誌に大々的に取り上げられたら診療現場は怒号飛び交う悲惨なことになるのでは怯えております。
私、意外と知られていませんが実は泌尿器を専門としています(バカ美容医師って罵った方へ)。今回の過活動膀胱の薬が果たして本当に認知症の原因となっているのか、微力ながら反論を行いたいと思います。
認知症の原因が抗コリン薬、特に過活動膀胱の薬とは言い切れない理由
自分の立場を守るために必死になって、様々な医学論文を探して泌尿器科医にとって有利なものだけピックアップするようなことはいたしません。
過活動膀胱治療薬である抗コリン薬がひょっとして認知症と関係があるのではないか?との疑問というか問いかけは同様のパーキンソン治療薬やうつ病治療薬と共に以前からありました。
じゃあ他の抗コリン薬として有名な消化器症状を緩和するブスコパンやチアトンでも認知症の発症の関連性が囁かれているのでしょうか?不整脈の治療にも抗コリン薬は使用されています。
消化器症状で抗コリン薬が処方されるのは短期間であり、過活動膀胱やうつ病やパーキンソンの場合は長期連用されがちだから認知症になるとの考え方もできます。
今回抗コリン薬が認知症と関連があるのではとの論文が掲載されたBMJで以前このような論文が掲載されました。「Non-degenerative mild cognitive impairment in elderly people and use of anticholinergic drugs: longitudinal cohort study」(BMJ 2006; 332)、高齢者の軽度認知障害と抗コリン薬の関係をコホート研究したものです。コホート研究とはある薬剤がある疾患が関連あるかを前向きに調べたもので、エビデンスレベルとしては2aとされ、メタアナリシスよりは信頼度が低いが後ろ向きの研究よりは信頼度が高いとされています。
この研究では抗コリン薬を服用していた人で軽度認知症と診断された人は24人、抗コリン薬を服用していなかった人で105人との結果になっています。さらに8年間追跡調査を継続したところ抗コリン薬の使用の有無は認知症の発症と差がなかったとの結果になっています。
この結果より考えられる今後の対処法は万が一抗コリン薬を服用していて認知症の兆候が現れたら、服薬を中止すれば良いわけです。
さあ、今回問題となっている過活動膀胱の薬が認知症の原因になっている可能性論文を検証します
今回の衝撃的な医学論文は症例対照研究という手法が取られていますので、エビデンスレベルとしては「抗コリン薬と認知症は関連性ないよ」との結果になった2006年に掲載されたものより低いものになります。
認知症、認知症というけど認知症と診断される前に老人性のうつ病じゃないかと診断されることがあります。
認知症にかかるとやる気が出ないし、今までできていたことができなくなり、当然活動性が落ち積極性が低くなって「ひょっとしてお爺ちゃん、うつっぽいんじゃないの」と感じるご家族もいます。となると認知症と診断される前に処方されていた薬の中に認知症になる可能性がある薬が処方されているかもしれませんとか言っていても,どうも今回の泌尿器科医脂汗タラタラの論文、うつ疾患に処方される薬を抗コリン作用の強い薬と弱い薬にしっかり分けて調べています。
その結果として抗コリン作用が強い薬の方がどうやら認知症との関連性が強そうです。さらにさらに泌尿器科医はもう今夜眠れないほど決定的な結果も出ています苦しい言い訳になります。過活動膀胱の治療を開始して服薬を継続している間に患者さんは年齢を重ねていきます。
認知症は老化と強く関連していますので、過活動膀胱を治療している間に加齢によって認知症が発症した、そんな考え方もできるかもしれません(ちょっと苦しいか)。
抗コリン薬と認知症の関連は明らかではないけど君子危うきに近寄らず
ちょっとおしっこが近いから私は過活動膀胱かしら?俺って夜にしょっちゅうお手洗いに起きるから過活動膀胱?と考えて受診される方が多いです(まあ、製薬会社の啓蒙活動の影響が大きいと思いますけど)。
排尿記録あるいは排尿日誌といってアプリも出ています(App Store「排尿日誌」)。
起きた時間とその時の尿量を数日間つけてもらうと、ご本人が感じているほど頻尿でないこともよくある話です睡眠時無呼吸症候群があって夜間頻尿である場合もしばしばあります。
尿の回数が多い、夜にお手洗いに起きてしまうという訴えだけど過活動膀胱の治療を開始することをする泌尿器科医はいないと信じたいです。万が一治療中にご本人、あるいはご家族に認知症の症状と思われる情報が入り次第過活動膀胱の薬を抗コリン薬ではない、選択的β3アドレナリン受容体作動性の薬に変更するとの考え方もできます。
現在この選択的β3アドレナリン受容体作動性の薬は日本では一種類しか保険適用されていません。すでに数社がこの系統の薬を開発中とも密かに聞こえてきています。
また他の薬を服用していてその薬に抗コリン作用があるのか、無いのかを判断してから過活動膀胱の治療として抗コリン薬を処方するという方法も考えらえます。
これから脱水や熱中症予防がしきりにメディア等で呼びかけられる季節になってきます。
夜間頻尿や日中の頻尿の原因の多くが実は水分の摂りすぎ、ってこともありますのでその辺りも過活動膀胱かな?と思われた方は頭に入れていただきたいと思います。