やっと乳がんの術後の乳房再建手術が保険適用されました⋯でも、もう少し患者さんのこと考えて欲しかった

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乳癌の摘出手術による乳房切除。女性にとってはとても大きな問題です。乳房再建手術を検討される方は多いのですが自家組織(皮弁法)による再建のみが健康保険の適用、つまり方法によっては高額な自費治療ということで泣く泣くあきらめる方が多くいらっしゃいました。この度ようやくインプラントによる乳房再建も保険適用になりました。大変喜ばしいことではありますが、認知度が低いこと、そして、医師として思うところがありましたので記事にしました。

やっと保険適用になった

7月1日からインプラントによる乳がんの術後の乳房再建術が保険適用となりました。乳がんの治療は手術が中心ですから、せっかくがんを取り除くことが出来ても女性として乳房が無くなってしまうことは精神面で非常に負担を掛けていました。

さらに再発の恐怖と闘っていかなければならないのに「乳房を失った」という精神的な負荷は計り知れないものです。

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厚生労働省ホームページより

一部の美容整形外科や乳房専門のクリニックでは再建手術は行われていましたが、高額な治療費によって再建手術を諦めざる得ない方が大多数だったのです。アンジェリーナ・ジョリーが乳がんの予防のために、乳房を切除して一時期かなり話題になりましたが、当然彼女は乳房再建術を行っていると思われます。治療費の面がネックになっていた再建手術ですが、国側もやっと重い腰を上げて今回の保険適用が決定されました。

でも一部から不満が噴出しています

乳がんの場合は、がんを取り除くために乳房の一部も取り除いていますので皮膚自体に余裕がありません。そのためにエキスパンダーとよばれる風船のようなものを胸部に一定期間埋め込んで皮膚を伸ばしてインプラントを埋め込む空間を確保しなければなりません。

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日本乳癌学会HP

よりお借りしました

このエキスパンダーには形が大きく分けて二種類あるのです。一つはラウンドタイプという真ん丸な形をしたものです。もう一つはアナトミカルタイプと呼ばれる涙型をしたものです。

今回保険適用されたものはアナトミカルタイプで、これはラウンドタイプと比較して自然な感じがするものであり、豊胸手術の最大の難点である「被膜拘縮」のリスクが少ないと言われています。

この決定は素晴らしいものです。美容整形の豊胸手術の場合、通常の大きさを望む場合はこのエキスパンダーは使用しませんが、外国では非常に大きな乳房を望む方も多い様ですのでかなりの頻度で使用されているようです。

ここでチグハグな決定が行われたのです。

というのも、さて次は実際にインプラント(一般的にはシリコンなどとよばれていますが)を挿入する空間を確保した乳房に埋め込むので治療を行って、乳房の再建手術は終了しますが、このインプラント自体がラウンドタイプしか保険適用されなかったのです。

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アナトミカルタイプのインプラントは種類が多いのですが⋯。
https://www.mentormedical.co.uk/よりお借りしました。

一方ラウンドタイプはこのような単純な形です

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要するにエキスパンダーはアナトミカルタイプなのに、インプラントはラウンドタイプしか使用できないということです。大げさに言えば四角い箱にボールを埋め込むという非常に不自然な組み合わせになってしまいます。

なんでこんな事態が生じたのか?

調べてみたら全く持ってお役所仕事まるだしでした。ラウンドタイプのインプラントの申請は2007年に提出されました。それに遅れて2012年にアナトミカルタイプ(自然な形)のインプラントの申請が出されました。

先に申請された方から承認適用されたということです。

厚生労働省をかばうとすれば、あのアメリカでさえアナトミカルタイプが承認されたのが今年の2月だからということは言えます。でも、乳がんの手術をされた方が今までどれだけ乳房再建手術の保険適用を待っていたか?を考えたらもう少し国側が柔軟性を持っていただけたら、どれだけ多くの患者さんに喜ばれたでしょうか?残念でたまりません。

形成外科医や乳腺外科医が一致団結して国側に強くアピールする必要があると思います。

実際に保険適用を受けるのは結構ハードルが高いのも問題

あくまで異物を体に入れるため感染のリスクなどを考えると、簡単な手術ではありません。その為この乳房再建手術を行うことが出来る施設の基準はかなり厳しいものになっています。

  • 手術を行う医師は日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会の講習を受けなければいけない
  • 所定の要件を満たす医師が責任医師として在籍した施設のみで手術は実施できない

このあたりは当たり前と言えば当たり前ですが⋯

なぜか、エキスパンダー実施施設基準とインプラント実施施設基準が違っているのです。ということはエキスパンダーの挿入は出来ても、インプラントを挿入できないという施設が出てきてしまうのです。この施設基準は非常に複雑怪奇な文章になっていますので、お時間のある方は詳しくはこちらをご覧になってその違いを見極めてください。

「乳癌および乳腺腫瘍術後の乳房再建を目的としたゲル充填人工乳房
および皮膚拡張器に関する使用要件基準」

これを解りやすく数字で表すと

  • エキスパンダー治療を実施できる施設 84施設
  • インプラント治療を実施できる施設 72施設

となって変てこな基準であることが理解できると思います。

また、乳がんのステージ(進行具合)によっても対象が限られてしまっています。簡単に言うとしこりの大きさが5センチ以下でないと適用にならないのです。

しかし、こんな複雑な基準でも年間1万人以上の方がこの「乳がん患者さんの手術後の人工乳房による乳房再建術」の対象になることが予想されています。

乳がん検診の意義も問われる可能性を含む

乳がんの手術は実際は手術をしたけど、実際は手術の必要性が無かった症例があるという報告が多数あります。特に海外では必要のない乳がん切除術が行われており、その乳がんはがん検診によって発見されたものが多いために乳がん検診自体の信頼度を疑う人も多いのが事実です。

に詳しく乳がんについての説明があります

しかし、今回の保険適用を考えると「しこりが5センチ以下で多数のリンパ節転移がないもの」とされています。その為には万が一乳がんであって乳房の再建手術を保険で受けるためには早期発見が必要になってきます。信頼度に疑いをもたれている乳がん検診ですが、誤解を招かない様に正しい情報を多くの人に知ってもらう啓蒙運動の団体にますます頑張ってもらわないといけませんね。

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女性の方はNPO法人 J.POSH 日本乳がんピンクリボン運動などで情報を積極的に集めましょう!

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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