医師と製薬会社の癒着は本当にあるのか?弁当くらいで処方が左右されるわけないじゃん、とは言い切れない模様。

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20ドル程度の食事の提供によって、医師が処方する薬に偏りが出るとの研究結果が海外で出ています。

日本でも医師と製薬会社の癒着が世間的には囁かれています。昔は製薬会社の医師に対する接待は凄まじいものがありました。しかし、近年は過剰な接待は製薬会社同士の監視によって行われていません。新薬が登場すると、説明会と称して弁当が提供されることがありますが、当院は開院依頼、そのような申し出があった時点で製薬会社のMRと呼ばれる営業マンは出入り禁止としています。

果たして製薬会社の20ドル程度の食事の提供は医師にどのような影響を及ぼしているのか、実体験をもとに考えてみました。

製薬会社と医師の癒着によって処方される薬が決定されている?

昔から製薬会社と医師の金銭を伴う癒着は問題視されていました。大学病院を離れてかなりの年月を経た私は昔のような派手な製薬会社の接待等は無くなっていると考えていたらこんな報道が昨年ありました。

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記事によると

ある医師の場合、自宅から新幹線の駅まで電車を使わず、片道二万五千円かかるタクシー代を製薬会社に出させた。新幹線の座席をグリーン車の席に変更するよう求める医師もいる。

さらにはこんな常識外れの医師がいることも書かれています。

「講演会にかこつけ、奥さんや彼女を連れてくる医師がたまにいる」とこの製薬会社の男性幹部。

自己負担で奥さんは彼女を同伴するのは問題ないとしても、この記事の流れからは医師は講演会や学会の奥さんや彼女を同伴する時に交通費や宿泊費まで負担する場合があると読者は受止めます。

私が知る限り、こんな非常識な行動をとる医師は見たことありませんし、製薬会社は厳しく自主規制していますし、製薬会社同士が監視しあって、過剰接待があった場合は業者間の会合で注意されたり、お役所にチクることもあるようです。

その製薬会社の薬に関係ない医学論文の提供さえしてくれない時代になっているのにこんなことが現実に起きているとは思えません。これが本当にあったことなら、常に私がお伝えしている、

「どんな母集団であっても1パーセントはバクが生じる」のバクあるいはコンタミにあたる医師なんじゃないかなあ。

一般の方が考えている医師と製薬会社の癒着なんてあるわけないじゃん、ちょっとした接待ごときで医師が特定の薬を処方するわけないよ、と考えていた私ですが、ショッキングな研究論文を見つけてしまいした。

製薬会社の接待を受けた医師はその製薬会社の薬を処方する傾向がある

この衝撃的な論文の中身を読み砕きながら、本当のところ医師と製薬会社は癒着してるのか、との皆さんの素朴な疑問にお答えします。

高額な食事の接待を受けると医師は特定の薬を処方する傾向がある

私がショックを受けた論文は「Pharmaceutical Industry–Sponsored Meals and Physician Prescribing Patterns for Medicare Beneficiaries」(PMID: 27322350 )。

この論文は米国で製薬会社の接待が医師の処方になんらかの影響を与えた可能性を探った研究でその結果として

20ドル以上の飲食を提供された医師は特定の薬を処方する傾向が認められた

との結論に至っています。

20ドルが高額かそうでないかは別問題としても、たった20ドル(日本円で2200円程度)の食事を数回提供されただけで、処方に偏りが出てしまうと。

いかに人間が弱いものであり、弱い人間の心理を上手く製薬会社は知ってか知らずか利用している可能性があるのです。

ちなみにこの研究の対象になったのは、アメリカの保険システムであるメディケアで処方された高脂血症・心臓・高血圧・精神疾患系の薬と医師27万9669人。

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食事の接待を受けた回数が増えれば増えるほど、特定の薬剤が処方される率が高くなることがこのグラフからわかります。

ここで注意を1つ。どの大学のどの医局でも常に研究費不足に悩まされています。製薬会社から資金援助を受けて、それを研究に使うことは私的流用が無い限り非難されるべき問題ではありません。

総裁選で某陣営よりお金をもらいながら、その候補に投票しない人が多数いた、なんて話もありますよね。研究資金をある程度集められる力のある教授って政治家レベルに老獪な人もいないわけじゃ無いような気がしないでも無いです(笑)。

昔はそれはそれは製薬会社の接待は凄かったけど⋯

私が医師になった当時、それはそれは製薬会社の接待攻勢は凄まじかったです。当時はパワポなんてないので、学会等の発表で使用するスライドは全部製薬会社もちで作ってもらっていましたし、必要な論文も取り寄せてくれたし、夜の会食の接待もそれなりにありました。

さらに、地方で行われる学会では若い医師は今では風俗と呼ばれるサービス業に製薬会社の営業マン(当時はプロパー、今はmedical representativeの略してMR 医薬情報担当者)に連れられて行った若い医師も少なくはありません。

病院にでも医局のドアの前は当然として、病棟内にあった医師の控室前にも袋を携えたMRが列をなしていました。当時、医局長が「診療時間中にプロパーがうろうろしていると、患者さんは医師と製薬会社が癒着しているだろうと思うから今後プロパーの病棟内への立ち入りは禁止❗」と宣言しても、患者さんとして受診して面会する凄腕のプロパーさえいました。

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これはインドのもの。ここでも「医師と製薬会社の間には不健全な同盟関係があります」と報じられています。

医師と製薬会社の癒着、それを見た患者さんは金銭的な癒着が無くても、「医師は製薬会社になんかもらっている。だからあの薬を自分は処方されているんだ」なんてことを思うのも無理はありません。

まあ、そこから医師と製薬会社と国との巨大陰謀組織が国の医療を操っている説まで発展させる想像力豊かな人が出るのもしかたないかも。

当院で出禁になった製薬会社は山盛りです

私は聖人君子でもありませんし、清廉潔白でもないし、叩けば埃の1つや2つは出てくると思います。精神的に弱い自分を知っているからこそ、当院では厳格なルールを設定して事前に製薬会社に告げています。

まずは、薬の重篤な副作用出たとの報告があった場合、新薬が出た場合以外はこっちから連絡しない限り、面会はお断りします。儀礼的な面会は全く無用ということです。さらに新薬が発売されて、そのプロモーションの1つである勉強会と称する弁当の差し入れを申し出た場合は出入り禁止。特に市販後調査と称して金銭授受を伴った行為の申し出をした場合は即刻出入り禁止。

このような当院というか私の取り扱い説明を事前にインフォメーションしているのに、K林製薬、GS◯、T鵬製薬、日◯◯薬が出禁になっています。

特に「新薬が出たら優先的に先生に市販後調査をお願いします」と偉い人がお申し出になった某社、ブチ切れた私が怒鳴ってお帰りいただきました。その某社、他の大学病院でも同じようなことをやったようで、「先生が出禁にした製薬会社、私も出禁にしました」と後輩である某教授からメールがありました。

今はネットで情報を簡単に得られる時代なので、新薬や自社の薬の新しい知見に関しての情報収集に関しては日常の診察には全く問題が発生していません。

当院でも医業関係者が待合室に待機していることがあります。ほとんどば美容部門の業者であり、私からハードな値引き交渉をされていることが多くて、当方からのアポ入れにはドキドキしていると思われます。製薬会社には勉強会や地方会に際してタクシー券が提供されるのが一般的ですが、私は自分の車を使用するのでそれも頂いていません。

豆知識

勉強会の後に「情報交換会」として立食式で食事が供与されることがあります。私がもっと安くあげるために、「弁当でいいじゃん」と意見したところ、着席での食事はお役人に目をつけられるからNG、そのために立食にしているとのこと。これって役人って「着席しての食事=料亭」をイメージしちゃうからなんじゃないのかな。

私は聖人君子でもないし、清廉潔白ではもちろん無いし、精神的に強くもないけど、どうしてもこう考えちゃうんだよねえ。

数千円の弁当の供与で処方に偏りが出ちゃうかねえ、人間って弱いし、スタッフは患者さんは常に厳しい目で見ているので⋯「瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず」これってどんな業種でも守った方が良いですね。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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