乾布摩擦(かんぷまさつ)には風邪を予防して、免疫力を上げる効果はあるか?

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庭先で、おじいちゃんが上半身ハダカでタオルでゴシゴシやっている、そんな風景をみかけることは少なくなりました。

乾布摩擦は戦前に小学校に導入され1980年代にピークを迎えた国民的健康法の1つですが、今ではどの小学校でも行っていません。

昭和の名残りともいえる乾布摩擦ですが、少なくとも全国的に広まったのは事実。本当に乾布摩擦に健康増進効果はあったのでしょうか?肌をこするだけで免疫力が上がるって話に医学的根拠はあるのか否か、ちょっと検証してみますね。

乾布摩擦は健康法として民間療法?医学的療法?

乾布摩擦とは「風邪を引きにくい体を作る」とされている、おばあちゃんの知恵的な健康法。

乾布摩擦の一般的な方法としては、上半身裸になって肌を乾いたタオル(昔は手拭い)でゴシゴシと擦る方法です。

寒い冬に、我慢しながらやるイメージが強いせいか、寒風摩擦と間違って覚えてしまっている人も少なからずいるかも?乾いた布の乾布摩擦が正解です。

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Pinterest「疎開先で朝の乾布摩擦をする東京・芝の国民学校の子供たち 1994年7月5日 朝日新聞」

私の身内でも本年100歳になる義祖父が冬であっても毎日ゴシゴシと乾布摩擦をやっています。

風邪を引きにくい、つまり免疫力(免疫ってそんな単純なものじゃないのですけどね)をアップさせる健康法として、以前は学校等で半強制的に行われていたのです。

この乾布摩擦(時には寒風摩擦と間違えた記述もあり)ですが、免疫機能に関する効果は民間療法的なものなのか、あるいは医学的な根拠のあるものなのか、ちょっと気になったので調べてみました。

この乾布摩擦に関しては、こんな話も出ています。

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https://tanba.jp/

乾布摩擦は

かつて取り組んでいた別の園長は、「今は『虐待』と言われかねない」とまゆをひそめ、「不審者情報もあるので、裸にさせるのはちょっと」と抵抗を感じているという。

とのこと。乾布摩擦が健康維持になんらかの効果がある、効果が無い、との視点以外の問題を含んでいるようです。

乾布摩擦に関する医学論文は多数ありました

学校でやらされる健康法の1つとして夏休みのラジオ体操を記憶している人も多いのではないでしょうか?一方、乾布摩擦に関しては私は経験したこともありませんし、学校で集団で行った記憶もありません。

どうみてもおばあちゃんの知恵的な(乾布摩擦はじいちゃんの知恵かな?)乾布摩擦、しかし、探してみたら健康面への影響を調べた医学論文が結構あるのです。

例えば乾布摩擦を行うことによって、体の温度がどのように変化をするのかを調べた医学論文があります。

「皮膚表面温度からみた乾布摩擦の効果の検討」(Biomedical Thermology (0916-6238) 19巻1号 Page19 1999.06 ) によると、乾布摩擦を数日間繰り返して行うと皮膚の表面温度(体の深部温度じゃなくて、表面であることに注目)が2度近く上昇するとの結果になっています。

体を激しく動かしながら、表面をタオルでゴシゴシ擦るのですから、体表の温度は当然上昇すると思っちゃうのですけどねえ⋯。

体表の温度が上昇することによって、免疫力がアップするとの科学的医学的な証明がなされているのであれば、乾布摩擦は風邪を引かない体質を作る、と言えるのでしょうけど、残念ながら体温を上げることが、免疫力アップにつながるとの根拠は現時点ではスッカスカです。

【免疫力を上げる】そんな簡単な話では無いし、医学的根拠がスッカスカな記事が多数。

【免疫力を上げる】そんな簡単な話では無いし、医学的根拠がスッカスカな記事が多数。

「体温を上げて免疫力アップ」「食事で免疫力を上げる」といった免疫力をアップして風邪・ウイルスに克つ情報が蔓延しカラダによいとされる情報には大抵「免疫力UP」がつきもの。残念ながら私たちの体のもつ免疫システムは複雑で単純ではありません。体温を上げれば免疫力上昇してガンにならないといった情報に医学的根拠はありません。   

体温を上げて免疫力アップが根拠の無い話であることに関しては↑をお読みください。

乾布摩擦はセロトニンとドーパミンを増やす⁉

海外の医学論文では、ひょっとして乾布摩擦は免疫システムで重要な働きをするセロトニンとドーパミンが増加することを報じたものがあります。

「Cortisol decreases and serotonin and dopamine increase following massage therapy.」(PMID: 16162447 )では、マッサージ全般の人体に及ぼす影響を検証しています。

この論文では唾液や尿中のコルチゾール(ストレスの指標として用いられることが多い)がマッサージによって減少し、セロトニン(最近は幸せホルモンとして扱われることが多い)とドーパミン(交感神経に関連する神経伝達物質)が増加することを報告しています。

研究者の方々には大変申し訳ないのですが、前掲の日本語の論文もこの英文の論文も、論文自体のクオリティに関して判断する能力を私は持ち合わせていないことを、この記事を目にした方にお伝えしておきます。

乾布摩擦、効果があるのであれば副作用はあるのか?

薬の場合、なんらかの良い効果があったら間違いなく悪い効果、つまり副作用があります。乾布摩擦が免疫機能を活性化させて、風邪を引きにくい体質を作り上げるとしても、タオルで体をゴシゴシ擦ることのよって副作用的な健康面でマイナスの影響が無いのかが気になってきました。

医学論文って凄いです。ちゃんと乾布摩擦による副作用的な問題点を検証した論文があるのです。

「The safety of massage therapy.」(PMID: 12777645)は乾布摩擦にフォーカスしたものじゃないですけど、マッサージ全般に関しての悪い影響を論じています。

マッサージの副作用として

  • 脳血管障害
  • 腎臓塞栓
  • 血腫
  • 神経損傷
  • 子宮破裂

など、「なんでそんな副作用が出るの???」的な体を害する可能性が述べられています。

美容的な面から一言付け加えると、肌をゴシゴシやってしまうことは、外傷性皮膚色素沈着の原因になり兼ねませんので、あまりおすすめはできません。

乾布摩擦、なんらかの効果・効能があったとしても様々な問題が残ります

乾布摩擦の体に対する影響を医学的な思考によって説明するとしたらこんな感じになるのではないでしょうか?

皮膚に刺激を与える → 外的刺激が皮膚の受容体が感知する → 刺激された神経が大脳にまで伝達する → 大脳からなんらかの免疫システムに指令が出る → たぶん、副交感神経が刺激される(たぶん、ですよ)→ ストレスホルモン(?)と呼ばれるコルチゾールが減少する → 幸せホルモン(?)であるセロトニンが増える → 免疫力アップ❗

との説明も無理くりできないわけじゃないです。でもさあ、増えてしまったドーパミンはどうなっちゃうの?なんて疑問も出てきてしまいます。

例えばこんな記事がありました。

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免疫力がアップする?「乾布摩擦」の効果❗ (https://www.hospita.jp/medicalnews/20180126/)

この記事には乾布摩擦の効果として

代謝、呼吸、内臓機能、体温調節などの機能をコントロールする自律神経は、疲労やストレスによって低下します。乾布摩擦により、皮膚に刺激を与えることで自律神経の働きがよくなります。

と書かれています。この流れによって「免疫力の向上」が効果として出るそーです。

さらに冷え性が治り、新陳代謝もアップするそうですけど、科学的医学的な根拠は明記されていません。

このような記事もありました。

乾布摩擦を行うことで副交感神経が刺激され、自律神経を整えることができます。さらに、血行がよくなって体温が上昇するため、免疫力アップにつながります。その結果、風邪を引きにくくなるほか、ぜんそくも改善に向かうというデータもあります

擦るだけで免疫力アップ!乾布摩擦

どこに免疫力をアップして、風邪を引きにくくなって、さらに喘息を改善したとのデータがあるのか、ぜひご教示いただきたいところです。

前掲の丹羽新聞の記事の中で医師がこんなコメントを残しています。

「乾布摩擦をする意味は自ら『風邪などにかからないようにする』という意気込みでもある。気持ちがポジティブになることで、自己免疫が上がるという作用(専門的にはプラセボ効果)があるでしょう。『病は気から』です」

おいおい、医師が「病は気から」って言っちゃうかあ⋯。

気の持ちようや精神状態は肉体とは関係あるでしょう。でも「病は気から」とか「多分ストレスでしょう」って言われた患者さんはガッカリですよ。そんなこと、みんなわかっています。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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