漢方薬は副作用が無いと思っていませんか?高齢者ほど危険な漢方薬の副作用。

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漢方薬って効果がマイルドで副作用が無いって思っている方が多いのではないでしょうか?漢方薬だって薬ですから当然副作用があります。副作用が全くないって言い切れる医薬品は生理食塩水だけなんじゃないかな?

副作用が無くて体に優しい漢方薬神話

どんな薬も昔から言われているように「毒にも薬にも」なるのは当然です。漢方薬の副作用としては「間質性肺炎」が有名ですが、肝臓の為の漢方薬で肝機能障害も起きます。最近、漢方薬が認知症関連の症状に効果があるとされているのですが、この漢方薬の副作用による「偽アルドステロン症」という聞き慣れない副作用が注目されています。

ツムラ抑肝散_-_Google_検索
http://www.kyowa.or.jp/より

漢方薬の副作用である偽アルドステロン症とは

アルドステロン症というのは私の本当の専門分野である泌尿器に属する副腎から分泌されるホルモンの異常が起きるものです。アルドステロンが大量に分泌されると高血圧になります。アルドステロンというホルモンはナトリウムなどの電解質のバランスを調整していて、体内に水分を保とうとする働きをしますので、判りやすく言えば体の水分が多すぎる結果になり高血圧を引き起こしてしまいます。

アルドステロンを過剰に分泌するホルモンを産生する腫瘍ができたものを原発性アルドステロン症と呼び、手術をすることによって病気をなおすことが出来ます。この原発性アルドステロン症に似た病態を現すのが「偽アルドステロン症」であり、両者の根本的な違いはアルドステロンが分泌されているか、いないかの違いです。アルドステロンが過剰に分泌されていないのに高血圧症となって、脳出血、心筋梗塞、腎不全という命に関わる病気の原因となってしまいます。

この偽アルドステロン症の原因が漢方薬に使用される「甘草」であることは、私たち泌尿器科医や漢方を詳しく知っている医師にとっては常識でした。この「甘草」を主成分とする「抑肝散」という漢方薬が認知症に伴う行動や心理的な症状 (BPSD Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia) に効果があるとされている為に多用され、高齢者のなかに偽アルドステロン症になってしまう人が出てきています。

高齢者ほどリスクが高い偽アルドステロン症

認知症ですから、当然患者さんは高齢者がほとんどになります。現在、認知症の薬として主に使われているものは数種類あります。しかし、それらの認知症の薬は基本的には「アルツハイマー型認知症」にしか明らかな有効性は認められていません。西洋薬に不信感をもっている患者さん、そしてその家族もいますので、そんな場合にこの「抑肝散」の処方に頼ってしまうのです。

一般的に甘草の量が多ければ多いほど偽アルドステロン症が発症しやすいことが知られています。この甘草の量が多いのが芍薬甘草湯、小青龍湯、そしてこの抑肝散なのです。甘草の主成分であるグリチルリチンが偽アルドステロン症を引き起こす原因です。このグリチルリチンによって副作用が出現する率が高齢者に対して抑肝散が処方された時に目立って効率になることを、慶應義塾大学漢方医学センターの吉野氏によって和漢医学学術大会で発表されました。

第31回和漢医薬学会学術大会–プログラム
第31回和漢医薬学会学術大会より

吉野氏によればもともと子供の夜泣き・疳の虫に対して使用されていた抑肝散を長期に渡って高齢者に投与することが問題であり、処方例も急増していることにより、副作用の偽アルドステロン症が急増しているとのことです。医療従事者専門サイトに詳しい内容が掲載されています(http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2014/M47380081/ ご覧になるには会員登録が必要です)。さらにこのように吉野氏は述べています。

「10年ほど前に抑肝散が現在のような使われ方をするとは誰も想像していなかっただろう。今後,使用実態下のデータに基づいて適正な使用法を構築していく必要がある」

高齢者の認知症が増加していて、様々な薬が開発販売されているけど決定打が無い為に昔のマイナーな薬を応用して治療に当たっているけど、長期処方、処方する患者さんの年齢は想定外であった、ということです。

安全だと思っている漢方薬も落とし穴があることに十分ご注意ください。ちなみに偽アルドステロン症を引き起こすグリチルリチンを含む「小青龍湯」は眠気に弱い方に対して花粉症の薬として普通に処方されていますし、「芍薬甘草湯」は足がつる、こむら返りの薬として常用されています。花粉症の西洋薬の副作用の眠気は最近の薬はかなり改善されていますし(関連エントリー)、こむら返りの解決手段は薬より明らかに効果的な方法があります(関連エントリー)。

漢方薬の将来像??

漢方薬は非常に高度の政治的判断によって、ある時期に突然保険適用になったので、副作用に対する治験が行なわれなかったことは意外と知られていません。漢方薬の効果のエビデンスがハッキリしているものは少ないので、今後効果のエビデンスとともに副作用の報告の蓄積を積極的に進めないといけないという真摯な態度の医師も多くなっています。一方で「漢方薬を健康保険適用から外せ❗」という意見もありますので、漢方薬の将来は日中友好関係に左右される可能性が大かもしれません。

だって田中角栄首相時代の日中友好条約のどさくさに紛れて漢方薬が健康保険適用になったんですから⋯言ってしまった❗

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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