高血圧と排尿障害の深い関係

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高齢者は血圧が高くなる、高齢者はおしっこが近くなる。多くは「歳のせいだからしかたない」と諦めているのではないでしょうか?

実は高血圧の薬が夜間頻尿を増悪させている可能性があります。高血圧と泌尿器領域の病気の関係について説明をします。

生活習慣病と泌尿器領域の排尿障害に関係は以前から知られていたけど

「The association between vascular risk factors and lower urinary tract symptoms in both sexes」(PMID: 16519993)という論文によって、糖尿病、高血圧、高脂血症の生活習慣病を前立腺肥大症の病状を知るためのスコアである国際前立腺症状スコア(IPSS)を使って調べたところ、危険因子が増えれば増えるほど排尿障害が増悪していることが明らかになりました。

つまり、

生活習慣病は排尿障害を悪化させるのです。

高血圧を心配する中年の男性・生活習慣病

今回は生活習慣病の中でも、一番罹患率の高い高血圧症と排尿障害の関係を考えてみたいと思います。

前立腺肥大症と高血圧が合併していると、排尿障害の症状は悪化する

前立腺肥大症の患者さんが、高血圧症も合併しているとIPSSが高くなる、つまり排尿障害が悪化していることが、日本の研究者によって「Influence of hypertension on lower urinary tract symptoms in benign prostatic hyperplasia」(PMID: 14633079)で報告されています。

この論文で分かったことは、高血圧の患者さんは高血圧では無い患者さんと比較して以下の傾向があるということです。

  • 昼間に頻尿である
  • 夜間頻尿である
  • 尿意切迫感が強い

このような傾向があり

おしっこを溜める尺度である「蓄尿症状」のスコアが高い(症状が悪い)

という結果になっています。

高血圧の薬が前立腺肥大症の症状を悪化させている可能性

降圧剤が前立腺肥大症を悪化させている可能性

高血圧症の薬はさまざまな作用機序のものが処方されています。数ある高血圧症の薬の中でも安価でシンプルな薬として「利尿薬」があります。利尿薬は身体の余分な水分を尿として体外に出すものですから、当然の結果として、オシッコが近くなる→IPSSの数値が高くなる→前立腺肥大症の症状が悪化、となるのです。

しかし、利尿薬が作用している時間は数時間。ですから、朝に高血圧の薬として服用すれば夜間頻尿に悩まされることはないはずです。ただ昼間の頻尿は避けられません。考え方を変えれば、辛い夜間頻尿を抑えるために、朝に利尿薬を服用すれば余計な水分を起きている間にオシッコとして体外に出してしまうという治療戦略も考えられます。

高血圧の原因と排尿障害の関係

高血圧症の薬が排尿障害を悪化させてしまうこともありますが、そもそも高血圧症になってしまうメカニズムを考えると、排尿障害と深い関係があることがわかります。

高血圧症は交感神経が高まることによって生じます。

交感神経が高まることによって、排尿障害も悪化することがわかっています。さらに、交感神経が高まっていると前立腺が肥大することと深い関係があることさえわかっています。

さらに交感神経が高まっていることによって、膀胱への悪影響もあるのです。

こうなると「副交感神経をアップする」とか「副交感神経を高める方法」という一見魅惑的なフレーズが踊る一般書籍などに惹かれがちですが、実は交感神経と副交感神経の関係はそんな単純ではないよという点に注意が必要です。

私が日常の診察で高血圧を合併している前立腺肥大症の患者さんに説明していること

夜間頻尿は前立腺肥大症などの、排尿障害を伴う疾患を持っている方にとって、一番辛い症状だと思います。高血圧症自体が排尿障害を伴い、高血圧の治療薬が夜間頻尿の原因となっていたら、患者さんはどうしようもありません。

私が日常の診察で高血圧の薬を服用している前立腺肥大症の患者さんには、このように説明しています。

  • 高血圧症の患者さんは腎臓の血管の抵抗が強いために、おしっこを作る臓器である腎臓への血流が日中は減っている
  • 血液を濾過しておしっこを作る臓器が腎臓なので、日中は腎臓への血流が減っているために尿量が減少している
  • 睡眠中は血圧が低下するとともに、腎臓の血管が拡張するために腎臓に流入する血液が増えるので尿量が増加する
  • その結果として、辛い夜間頻尿が引き起こされる

しかし、排尿障害、特に夜間頻尿のメカニズムは単純ではありません。

医師が排尿障害と高血圧症を把握する目的で患者さんへお願いしていること

泌尿器で受診しているのに、なぜか日々の血圧を記録する「血圧手帳」を私から渡された患者さんは少なくはないと思います。なんで血圧?と思われていた方は、当記事をお読みいただければ高血圧症と排尿障害が切っても切れない関係にあるからだとご理解いただけるでしょう。

一方、私から「宿題ね」と言われて「排尿日誌」を渡された患者さんも多いと思います。より正確な排尿状態を把握するためには面倒な記録をつける必要がどうしてもあるのです。簡略的に「夜間の尿の回数と尿量だけ三日分つけてね」とお伝えすることもあります。

「夜間頻尿なんだけど」
「夜間の尿がいっぱい出るんだけど」
「夜、目が覚めると必ずおしっこしちゃうんだけど」

など、患者さんの訴えは様々です。排尿日誌をつけるだけで、なぜか夜間頻尿が改善してしまう症例もありますし、睡眠障害が原因で夜間にちょくちょくトイレに駆け込む方もいらっしゃいます。

めんどくさいなあ、

と思わず宿題である「排尿日誌」と「血圧手帳」への記録をぜひお願いしますね。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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