最近、とある医師による記事が話題になっている。タイトルを見て「お、科学的な検証か?」と思って読んでみると、どうやら“相関”という言葉を習得したばかりの中学生が、得意げにグラフを眺めているような感覚に襲われちゃいました。それは現代メディアのこの記事!!
”日本人の死亡数が急増!…「コロナ死」で説明できる範囲をはるかに超えている、政府が隠したがる「謎の大量死」”
これはもう“冷静に読むこと自体が試される”タイプの記事(別名リテラシーテスト記事)。さっそく見ていきましょう。
本記事の内容
「謎の大量死」って、何と比較して???
「コロナで説明できないほどの死者が出ている」と言いながら、何と比較して、どれほど多いのかの具体的な指標が示されていません。
読者としては「何と比べて」「何人多くて」「いつからどのように?」がなければ、ただの不安を煽る言葉であり、医師が科学者の端くれであったらこのようなセンセーショナルな記事を書く場合は気をつける必要があります。
つまりこの表現、数字が出てこないのに感情だけが自己増幅されるタイプの文体です。
まずはこちらのグラフをどうぞ
記事ではこのグラフをもとに、
「2021年以降、予測を上回る“異常な死亡数”が続いており、“謎の大量死”が発生している」
という論調で進めています。
そもそもこの“予測”って何???
「コロナ禍だったから、コロナ関連死が増えたのだろう」と思われる方もいるかもしれません。ただ、グラフ上でグレーの四角で示した「コロナ死を除いた死亡数」も、予想範囲をはるかに超えています。
と書かれていますが・・・。
よく見るとこの「予測死亡数」は、2012〜2019年の実測値から引いた“ただの回帰直線”です。
(しかも回帰直線の決定係数 R²=0.96 をやたらと強調しているように見える)
※「回帰直線」とは過去のデータに、一番うまく合う、まっすぐな線を引いて、将来を予測しようとする方法です・・・があ、その直線が正しいのは“過去の流れが続く”という前提があるときだけなんだよなあ。
つまり、この記事を書いたお医者さんが死亡数が毎年“一定のペース”で増えると仮定しただけの線。
この考え方、理解の仕方の問題は、その直線と実測がズレたときの解釈、普通なら「予測の前提が現実に合わなくなった」と見るべきところを、この記事では「現実が異常だ!なぜか大量死が起きている!」と“現実のほうを”異常扱いしてしまう。
これはもう、因果の逆転現象ですねえ(苦笑)。
高齢化を無視した予測モデルには注意が必要
日本では、ちょうど2021年から「団塊世代」が75歳を超えて後期高齢者入りしています。
「年齢構成の劇的な変化」こそが死亡数増加の最大要因なのに、それを無視して「直線予測とズレたから異常死だ」と言い出すのは、なんとなーく人々の不安を煽って、何らかへ導きたいというように解釈してしまう私は捻くれ者なのかもね。
”コロナ死“だけで全てを語る意図は何だろね?
このヘンテコな記事中では、“コロナによる死亡”を除いても超過死亡が多いとの解釈をされていますが……
ここでいう「コロナ死」は、厚労省が公表している「直接死(PCR陽性+死因がコロナ)」だけを指しており、コロナによる持病悪化、救急の逼迫による対応遅れ、社会的孤立や自殺、医療受診控えによるがんの発見などは「間接死」は除外されています。
さらに記事中で「説明できない」と結論づけるのは、ちょっとフェアじゃない。
「2020年との比較」もミスリード
「2020年は死亡数が少なかった → その後急増した」とありますが、みなさん、思い出してください2020年は特別でした。
・外出制限で交通事故激減
・インフルエンザが激減
・社会全体が“引きこもり状態”でコロナ以外の感染症が激減
・感染症以外でも医療機関受診が遅れてしまった
このヘンテコリンな記事を書いた方は2020年のことを忘れちゃったのかなあ(私はクリニックが大パニックで実は当時の記憶がほとんどどっかにすっ飛ばされてしまっているけどね笑)。
くれぐれもセンセーショナル記事にはお気をつけくださいませ
この記事の構成は、
1. 見た目にインパクトのあるグラフを提示
2. 専門用語(回帰分析・R²などなど)で“科学感”を演出
3. でも実際には前提の欠落や構造変化の無視が散見
4. 結論だけ「謎の大量死」に飛びつく
という典型的な相関を因果に見せかける、筆者の意図した一定の方向(まあ、ある程度察しはつきますけど)にかなり誘導されちまう危なっかしい記事なんです。
科学的判断が最も大切にしなければならないのは「前提の吟味と慎重な推論」のはずです。
※良い子のお約束
1:グラフを見る目があれば、煽り記事も冷静に読める
2:「“科学的っぽさ”に騙されない力、それがリテラシーです」
3:記事を書いた人の肩書きに惑わされない
いいかな、大きなお友だちもしっかり守ろうね!!
次回の赤ペン先生もお楽しみに!