海とタコとパスタ、そして謎の反ワクK氏

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海辺で本を読み、佐島でタコとしらすを買う──穏やかな休日の最中、SNSに舞い込んだ一件の返信が、思わぬ論争の火種に。副作用リスクの話題から始まり、謎の反ワクK氏による論点すり替えが連発。

副作用リスクの話題から始まり、謎の反ワクK氏による論点すり替えが連発。VERSUS研究にも触れたやり取りの顛末を記す。

海と本と、そして一通のリプライ

先日の休日の恒例となっているお気に入りの海岸へ行った。

朝は浜辺で「新しい階級社会 最新データが明かす<格差拡大の果て> 」を読みながら潮風に紙の匂いを混ぜながらページをめくる。心地よい時間を過ごしていた。

昼前になると佐島のお気に入りのお店に顔を出し、目当てのタコを購入。とにかく”タコは佐島に限る”。ついでに、最近はめっきり漁獲量が減った”しらす”をお店のおばさんと「自然任せだからしかたないよね、一人一パック限定でも」なんて会話を楽しみながらゲット。

あまりにも見事なタコだったので写真を撮ろうとスマートフォンを開いた、そのとき。

私のX(旧Twitter)の投稿への返信が目に入り、つい覗いてしまった。きっかけは、別のユーザーが投稿していたこんな一文だった。

「ロキソニンの副作用として『腎機能障害』があるので怖くて飲めない」

私はこう返した。

「お気持ちはよくわかります。ただ、『副作用がある=飲んではいけない』ではなく、『副作用を知った上で、必要性と天秤にかけて使う』のが医療の基本なんですよね。ワクチンも同じです。」

するとそこへ、見知らぬ謎の反ワクK氏が割り込んできた。

突如割り込んできたK氏

K氏:
「副作用で死ぬ場合もあるような薬品を『努力義務』にしたんですよね?」

私:
「副作用のリスクは、必要性と利益とのバランスで判断するのが医療です。」

K氏:
「必要性と利益のバランスが全く取れていない。まさか『42万人死ぬ』『36万人助かった』みたいな机上の空論をベースにしてますか?」

私:
「“副作用リスクはあるが、明らかにメリットが上回る”というエビデンスは各国で共有されています。医療は机上の空論ではなく、統計・臨床・倫理のバランスで成り立っている世界です。」

K氏:
「具体的にそのエビデンスをどーぞ。その中で“感染予防効果”にどういう数字を使っているかも説明してね。」

私:
「『数字出せ』って人に限って、出すと『でもそれって信用できるの?』って言い出すんですよね。」

K氏:
「そうやってつべこべ言ってるやつは、具体的なデータほぼ見てない説。著名イクラやマスコミの記事を鵜呑みにしてるだけだろうな。」

VERSUSの一員として

私は、長崎大学を中心とした「VERSUS研究会(COVID-19 Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for Understanding SARS-CoV-2)」の一員として、ワクチン効果や感染症の動向をリアルタイムに調査する研究に参加しています。

そこでこのような投稿を考え、投稿しました(そういえば以前、「私は学長です」と本物の学長がのネット上のやり取りの途中で投稿して話題になりましたね)。

私:
「私はVERSUSという新型コロナワクチン有効性研究グループの一員です。実際に関わった研究もあります。データを“鵜呑み”ではなく、一次情報として出しています。」

反ワクとのやり取り

K氏:
「経歴を聞いてるんじゃなくて、そのデータの“感染予防効果”の数字の根拠を説明してって言うてます。」

論点が変わる瞬間

早めに都内へ戻り、飯倉の老舗イタリアン「キャンティ」へ。冷製パスタ、ウニのムース、アジの酢漬けを前に、K氏とのやり取りを読み返し、そして次のような投稿をすることに決めた。

私:
「“データを鵜呑みにしてるだけ”じゃないと証明したら、今度は“そのデータの中身を全部説明しろ”に論点が変わったようですね。」

この間、K氏の文面には時折こうした言葉が混ざった。

「おまえ」
「たわけ」
「はよ出せ」

そこで私は、議論を整理するために三択を提示した。
① 感染そのものの抑制(PCR陽性者数の減少)
② 発症の予防(無症状でとどめる)
③ 重症化の予防(入院・死亡の抑制)

返ってきた答えは①の「感染そのものの抑制」。

ならば次に必要なのは、「どの時期のワクチン接種」の話かを明確にすること。感染抑制効果は変異株や時期によって大きく異なるため、ここをはっきりさせなければ、当時の政策判断の妥当性を検証できない。

ところが、その問いに対して返ってきたのは——
「子どもにまで努力義務を打ち出した当時って何度も言うてまんがな」。

具体的な時期は最後まで出てこない。「当時」という言葉ばかりが繰り返され、議論は一歩も前に進まない。噛み合わないやりとりの虚しさを感じながら、冷製パスタのフォークをくるくると回していた

ただ虚しさだけが残った

このやりとりは、決して私の優位を誇示するためではない。
ただ、私の休日——海へ行き、旬の味を楽しみ、静かに過ごすための時間——の一部が、このやりとりに吸い取られていったという事実は、否定できない。

SNSでの議論は、相手を「言い負かす」ためではなく、情報を整理し、立場を明確にし、必要ならば互いに修正するための場であるべきだ。少なくとも私はそう思っている。だからこそ、論点が定義されず、時期も明示されず、同じ言葉が繰り返されるやりとりには、どうしても虚しさを覚えてしまう。

この日、海とタコとパスタの間に挟まったやり取りは、結果的に何も新しいものを生まなかった。

それでも、こうしたやり取りを記録し、考え続けることには意味があると信じたい。私たちが公共の場で交わす言葉は、未来の誰かが同じテーマを考えるためのヒントになるかもしれないからだ。

記録する意味

この日のやり取りは、最終的に何も新しいものを生まなかった。
それでも記録に残すのは、こうした会話の構造を後から分析できるからだ。
いつか未来の誰かが、このやり取りを見て「同じ罠にはまらない」ための材料になるかもしれない。

次に浜辺で読書をし、佐島のタコを買って、キャンティのパスタを味わうときは、スマホには手を触れないようにしようと心に誓った。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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