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「心拍数が低い人は犯罪に走りやすい」って本当??

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先日SNSで「心拍数が低い人は犯罪に走りやすいのか」が私の周囲で話題になっていました。話題となった記事は、プレジデントオンラインの職場の最新心理学「なぜ、心拍数が低い人は犯罪に走りやすいか」です。

巷に出回る「心拍数が低い人は犯罪に走りやすい」との説は本当?嘘?

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この記事ではどこからその話が出てきたのか、いわゆる一次ソースが書かれていませんが、私は橘玲さんの書かれた「言ってはいけない 残酷すぎる真実」(新潮新書)で同じような内容の話を読んだことがあります。別に橘さんは医療の専門家じゃないし、心理学の大家でもないので書かれたことが嘘である、なんてことは申しません。橘さんの場合、参考文献として一般書籍を記載していることが多いので、「心拍数が低い人は犯罪に走りやすい」に関する医学論文を検索したことを思い出し、犯罪者=心拍数が低い、って説について考えてみます。

犯罪者は心拍数が低い、という医学論文は確かに存在します

例えば「A Longitudinal Study of Resting Heart Rate and Violent Criminality in More Than 700 000 Men.」(JAMA Psychiatry 2015 Oct;72 (10) :971-8.)という医学論文があります。70万人以上の男性について反社会的行動と心拍数に関して長期に渡って調査したものです。この論文の結果として男性の場合、安静時の心拍数が低下と犯罪のリスクに関連があったとなっています。プレジデントや橘さんが書いていたことを裏付ける医学論文です。しかし、この医学研究はスウェーデン人の男性に対して行ったものであり、さらに有罪判決となった場合についてのみ検討されいる点など、データの因子に関していくつか疑問点があるものです。つまり、裁判で有罪とならない知能犯?は心拍数が高い場合や冤罪であっても心拍数が低い場合などはこの結果を支持しないことになるのです。

心拍数が低い、これはなぜ起こるのか?

スポーツ選手の場合、心拍数が少ない方が有利とされていて「スポーツ心臓」と呼ばれる一分間あたりの心拍数が50以下、極端な人は35ー40なんて有名選手もいます。自分の心拍数が少ないから「俺ってスポーツ選手に向いている」なんて安直に考えてはいけません。ひょっとすると心筋症であったり徐脈性不整脈の場合がありますのでご注意を(詳細はメルクマニュアルなどをどうぞ)。

スポーツ選手の場合はトレーニングによって心臓の筋肉自体が肥大して、大量の血液をゆっくり時間をかけて収縮することで、全身に必要な血液を送り込むことが可能になります。このスポーツ心臓はある一定の負荷をかけることで得られる能力であり、トレーニングを怠ると普通の心拍数に戻ると前掲メルクマニュアルには書かれています。

犯罪者の心拍数を調べた論文において、スポーツの経験は因子に入っていませんし(見落としていたら失礼)、第一スポーツ選手の方が一般人より犯罪を犯しやすい、特に暴力犯罪を犯しやすいとのデータがあるのでしょうか?「日本でもスポーツ選手の犯罪が報道されるじゃん」的意見もあるかもしれません。歴史的なO.J.シンプソン事件だって超有名選手だから記憶に残っているだけであり、彼の心拍数が低かったとしても、バイアスのかかったデータの一つにすぎないはずです。

男性が男らしい所以であるテストステロンと犯罪の関連性

テストステロンというホルモンがあります。これは男が男である証のホルモンであり(女性もちょっとだけあります)、一般的に「攻撃」的にさせるホルモンとの受け止められているようですが、これは間違っています。例えば男性医学の大家である順天堂大学泌尿器科教授の堀江氏は日経トレンディ中で以下のように述べられています。

かつて「犯罪者はテストステロン値が高い」と言われたのは根拠の薄い俗説。高い人は確かに積極的で元気がいいが、決して反社会的ではない。どちらかといえば、テストステロン値が低い男性の方がケンカっ早い

日経トレンディ

さらにネイチャーでも「Prejudice and truth about the effect of testosterone on human bargaining behaviour」とのタイトルで、テストステロンって誤解されているのでは、との考えが公開されてます(https://www.nature.com/articles/nature08711)。

一つの説を金科玉条として、信じ込む危険性

橘玲さんの書籍は読み物として「へえー、そんな考え方や説もあるんだ」と非常に参考になります。しかし一方で以下のような記載が前掲プレジデントオンラインにあります。

犯罪者を統計的に分析すると、明らかな危険因子があるとわかっているのです。なかでも大きな危険因子はビッグ4と呼ばれており、「犯罪歴」「反社会的交友関係」「反社会的認知」「反社会的パーソナリティ」が挙げられます。

さらに

最近の研究でわかっているのが、心拍数が低い人は粗暴傾向が大きいということです。心拍数が低いということは、呼吸数が少ない、つまり交感神経の覚醒度が低いことを意味します。

こんな記載をしてしまっているこの記事ってかなり問題含みじゃないでしょうか?アホな上司が「お前は心拍数が少ないから交感神経が覚醒していない、もっと緊張して仕事しろ❗」とか、入社時の身体検査で心拍数に注目して「こいつは要注意人物だな」とか、「心拍数が低いから採用しないようにしよう」なんてバカが出てくる危険性があります。そういえば旧日本陸軍が血液型によって性格が違うというニセ医学を信頼して、兵士の配置を行ったなどの例もあります。心拍数と犯罪の関係って血液型で性格を占うレベルの話のように感じてしまったのは私だけでしょうか?下手すりゃ血液型占い信者さんのような、非科学的な差別主義が生まれないように注意したいですね。

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著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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