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【急増】梅毒感染拡大の原因を5つ考えてみた。

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歴史上に有名人物が「実はあの人って梅毒だったんだって」的な話をしたことがあると思います。私が医師になった当時に梅毒はすでに過去の感染症扱いで、カルテの片隅に「ワ氏 +と記載されている人を時々見かけた程度です(ワ氏についてはあとで説明します)。昔の小説の登場人物がよく結核でサナトリウムで療養する話がありましたが、ここ数年結核は過去の病気では無い、と少なくとも医療関係者は認識しています。

過去の病気と患者さんも医師側も思っていた梅毒が大流行❗

性病の一つとして有名ではあるが、実際にお目にかかることがなかった梅毒に感染している人が近年急増しています。東京都感染症情報センターによれば

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これは過去10年間の東京都に届出のあった梅毒感染者数ですが、明らかに右肩上がりです❗これは9月6日までの集計ですから、この勢いだと昨年より今年の方が感染者は増加するのは明らかです。

さらに今年2017年、単年の梅毒感染者は

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安定的?に増加傾向を見せていています。

なぜ梅毒は近年になって急増しているのか?

私が医師になった当時は性感染症の患者さんに対して「こんな病気は男の勲章だよ」的な現在だったら大問題になるような発言をしていた大先輩泌尿器科医もいました。性感染症はその昔「花柳病」なんて風流な名前がつけられていていたこともあります(花柳とは芸者さんなんかがいた大人の男の遊び場)。

梅毒患者さんが私のような開業医でも、チョロチョロ見つけ出したのはここ10数年ですが、ここ2−3年は爆発的に増加している体感があります。感染症なんだからある一定数の患者さんがいれば、パンデミックでは無いですが大流行するのは当然。なぜ、近年になって梅毒感染者が増加しているのか、いくつかをエビデンスはありませんが、考えてみました。

  1. 医師が梅毒のことを詳しく知らない。
  2. 若い世代において、性に関する認識が大きく変わっている。
  3. 外国人観光客の増加に伴い、海外から梅毒が流入している。
  4. 性風俗の形態が変化した。
  5. 梅毒なんて過去の病気だと多くの人が考えてしまっている。

などが考えられます。

医師が梅毒のことを詳しく知らない

1の医師の認識不足。これは流行の一つの原因と考えて間違いないと思います。HIVの原因が特定されていなかった昔は入院時に採血をして感染症の有無を調べていました。当時はB型肝炎と梅毒の検査であるガラス板法によるワッセルマンという人が考え出したワッセルマン反応を確認していました。

このガラス板法で陽性と判定されると、患者さんのカルテやベッドに「ワ氏+」と書かれていたのです(今だと人権問題、個人情報問題になるかも)。

しかし、このガラス板法等による検査(serologic test for syphilis 略してSTS)は抗原抗体反応を利用しているために、梅毒の原因である梅毒トレポネーマ自体を検出しているわけじゃ無いので偽陽性がでる可能性がありました。

梅毒感染の初期症状として硬結、硬性下疳が有名ですが、これ自体を若い医師は写真でしか、見たことがないと思われます。

硬結とは感染初期に小さな小豆大のブツブツができることで、見慣れていない医師だと、毛穴の感染症かな?と診断してしまうような病態です。この時に両鼠径部のリンパ節を触診すれば、ひょっとしたら梅毒かもと考えるハズですが見逃してしまうことも多いようです。

次の硬性下疳、これは文字からは想像がつかない病態だと思われます。前述の硬結に伴い中心部に潰瘍ができている状態で、見慣れていないと性器ヘルペスと見誤ってしまう可能性があります。実際に他院でヘルペスと診断され、治りが悪いために当院を受診して「梅毒」と診断された患者さんが、ここ数ヶ月で複数人います。

若い世代において、性に関する認識が大きく変わっている

性に関する考え方、男女交際に対する考え方は時代と共に大きく変化をしています。若い世代が一番気をつけている性病はエイズです。

性病の一つである「淋菌」を聞いたこともない病気とおっしゃった患者さんも複数人経験していますし、梅毒という性感染症自体をご存知ない方もかなりの数いらっしゃります。

性行為と言っても、自分は当たり前の行いであったと考えていても、第三者から見た場合は一般的ではない動きをしている場合もあり(このあたりはご想像にお任せします)ますし、オーラルは性行為では無い、との認識を持った若者も多いのです。

例えば淋菌やクラミジアに感染して尿道炎になった患者さんに「性行為は治るまで控えてね」と伝えても、なかなか症状が軽快しない場合があります。そんな時「彼女に口でしてもらっても、尿道炎は感染するよ」と伝えると「えっ、オーラルも性行為❗」と返されることが以前はありました。そんな経験から性感染症になった人には「普通のセックスはもちろんのことオーラルもダメだよ」と付け加えるようにしています。実はこの梅毒もオーラルセックスでも感染します。性的な嗜好を他人がとやかくいうことは如何なものかとも思いますが、東京都の報告によれば異性間性的接触感染だけでなく、男性同性間性的接触(MSM)感染も増加しているようです。

3:外国人観光客の増加に伴い、海外から梅毒が流入している

近年、行政の働きかけで海外から日本を訪れる方が増加しています。

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私が医師になった時代と比べると10倍くらい増えています❗

梅毒ってもともとアメリカ大陸の風土病であったものを、コロンブスらがヨーロッパに持ち込んで世界中に拡散した、と一般的に言われています(真偽は不明)。まあ、それ以前にアメリカ大陸に到達していた人も多数いるために正確とは言えませんが、少なくとも江戸時代には梅毒が日本でも感染症として存在しています。海外との交流を長崎の出島に限定したにも関わらず、全国で梅毒感染者が出ています(検査をしたわけじゃなく、病態から考えての診断)。感染症って交通手段が格段に劣っていた江戸時代、それも自由に往き来ができなかった時代でさえ、猛烈なスピードで拡散していたのです。

旅の恥は書捨て、なんて言葉があります。日本に観光できてはしゃいで日本人と仲良くなって、感染なんてことも考えられます。ちょっと前まで非常に恥ずかしいことに日本人男性が海外でいわゆる買春旅行を行なっていたように、性行為を目的として来日する外国人もいるようです。

日本であまり流行していなかった梅毒感染が近年増加しているのが、日本に訪れる外国人数の増加と同様に右肩上がりなのは、単なる相関関係であり、因果関係では無いかもしれませんけど⋯。

性風俗の形態が変化した

昔は花柳界を中心に梅毒に感染していました(当時は買春は合法)。買春が戦後に違法となっても実際は風俗と呼ばれつつ買春及びそれに準ずるようなビジネスが存在しているいることは、誰も否定できないはずです。2017年1月30日の産経新聞デジタル版は興味深い記事です。

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この記事では梅毒感染が急拡大している原因として

近年はセックスワーカーをあっせんする業者(デリヘル)が増加している。店舗型の業者に比べて感染症の検査を徹底できていない面もあるのではないか

と書かれています。

店舗型の風俗店であるソープランド等は定期的に性感染症のチェックを行なっているのに、デリバリー風俗はその検査が定期的に行われていないのでは?との指摘です。

また素人の人も

昔は、若い女性は同世代と性交渉をしていたが、最近はインターネットなどを介して年齢の離れた男性と関係を持つ人もいる。年上男性が実は梅毒に感染していて、女性にうつしてしまうケースがある

といった昔はありえなかった手段で異性と出会い性交渉をすることが梅毒感染者増大の原因としてあげられています。

あと、こんな問題も提起しています。

女性がピルを飲んでいるので、膣内射精する男性が増えているが、これでは性感染症は防げない。性交渉の際はもちろん、オーラルセックスのときもきちんとコンドームを使用することだ

性交渉によって感染症にならない基本中の基本はコンドームの使用です。避妊目的だけではなく、性感染症予防効果も重要なポイントですね。

梅毒なんて過去の病気だと多くの人が考えてしまっている。

これは医師も患者さんもついつい考えがちではないでしょうか?初期の梅毒感染であれば、抗菌剤を服用することで完治します(抗体は残りますけど)。若い人が特に気にする性感染症はクラミジアとエイズであり、梅毒って何?って感じの患者さんがかなり多いのです。でも、実際には男女ともにクラミジアに感染する人は近年減少傾向にあります。

性の健康医学財団

クラミジアや淋菌が原因の尿道炎の場合、男性の多くは排尿痛などの症状を伴います、女性もむずかゆいとかオリモノが増えたなどの症状が出ます。クラミジアも淋病も性感染症だよ、という広報活動によって、一旦増加傾向にあったものを抑え込むことができたと思います。梅毒の第一期と呼ばれる感染後3週くらいで出現する、硬結・硬性下疳も無治療で症状が回復することがあります。また、梅毒に感染しても症状が出ない場合もあります。となると梅毒の第二期の症状であるバラ疹などが出現するまでに、性交渉をしてしまうと第三者に梅毒を移すことになるんです。また、梅毒は1度罹ったから2回目は感染しないような免疫がつく感染症ではありませんので、何回でも感染を繰り返します。

心当たりがあれば医療機関の受診をすることをお勧めいたします。

血液検査で判定できますので、泌尿器科・婦人科以外でも検査を受け付けているはずです。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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