不安と科学の境界線。“不良品ワクチン”報道に必要な視点とは?

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現代ビジネスの森田洋之先生(医師/南日本ヘルスリサーチラボ代表)のコロナワクチン関連記事に関して連発で赤ペン先生をしてきましたが、結局誘導したいのはこれかい!!って感じの記事を見つけました。

コロナワクチンの安全性は不確か…人体に悪影響な「不良品ワクチン」が健康被害をもたらしている可能性がある

https://gendai.media/articles/-/153172

この記事を赤ペン先生シリーズ(?)第三弾として冷静に科学的視点で添削してみますね。

「ワクチンが不良品だった可能性が…?」──“科学的っぽさ”で不安を煽る構造に、赤ペン先生が入ります!

また出ました。おなじみの“ぐらぐら積み木”スタイル。
「LNPが怪しい」「mRNAは不安定」「不良品ワクチンかもしれない」
……と、あたかも科学的知見に基づいているかのように、疑念だけを積み重ねていく記事。 でもその積み木、ちょっとつつけばすぐ崩れそうです。

そもそも森田先生はワクチンの重要性は以下の文章からご理解はされているご様子。

旧来のワクチンは通常、「弱毒化したウイルス・細菌」を体内に入れることで、体の免疫反応を活性化し、抗体を作ることを目的としています。ただ、「ウイルス・細菌」そのものを体内に入れるのは危険もともないますし

ウイルスや細菌に無防備に感染してしまうことがリスキーであることは、さすがにお医者さんなんですから納得はしていると予想できます。

しかし、この反ワクチン煽り記事とも言えるシリーズ全体を見てみると感じないではいられないのが、非科学的視野による必要ない不安を煽る傾向です。

ものごとを懐疑的に思考する視点は大切ですが、やはり医学といえども科学的視点で一般の方に解説するべきだと私は常々思っているのです。

赤ペン先生が気になるポイントは「科学用語で飾って、最後は“かもしれない”で落とす」

この記事の特徴は、

  • mRNAワクチンの仕組み解説
  • LNP(脂質ナノ粒子)とアレルギーの関係性
  • 製剤のバラつきの可能性

……と、それっぽい話を挟んでおいて、最後にポンと現れるこの一文:
「不良品ワクチンが原因で健康被害が出た可能性がある」
なるほど、因果関係を一切立証しないまま、“可能性”だけで締めるという美技。 でもこれ、冷静に見ると「論理の綱渡り」でしかありません。

「不良品ワクチン」って、実在してましたっけ?

確かに、ワクチンはロットごとに品質検査を受けていますし、製造工程におけるばらつきの可能性は常にゼロではありません。
が、

  • ロット単位での死亡率の差異
  • 重大な副反応のクラスター

など、疫学的に有意といえる「不良品ワクチン」の証拠は、現時点で示されていません。 「〜かもしれない」で議論を進めるなら、オカルト記事と紙一重です。

ちなみに「Batch-dependent safety of the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine」(PMID: 36997290)や「Reports of Batch-Dependent Suspected Adverse Events of the BNT162b2 mRNA COVID-19 Vaccine: Comparison of Results from Denmark and Sweden」(PMID: 39202624)によれば、

副反応の報告件数にロット間のばらつきが見られたが、ばらつきの原因として、報告率の違いや使用地域の偏りなどに起因する可能性を指摘はしていますが、それが、不良品ワクチンの存在を示す「決定的証拠」には至っていないとの結論です。

動物実験だけで語っていいんでしたっけ?

LNPの安全性についての記事中では、マウス実験での炎症反応に触れています。
……でも、それだけ?

  • ヒトでの再現性や統計的傾向は?
  • 臨床での実測データとの整合性は?
  • 世界のワクチン安全性データベース(たとえばVAERS)との照合は?

「マウスで炎症起きた」だけでは、あまりにも話が飛躍しすぎでは?と科学者や医師じゃなくても「動物実験で効果が認められた=人体でも効果が認められた」あるいは「試験管レベルの研究で効果が認められた成分=ヒトにも効果がある成分」的なインチキサプリメントの広告文的な優良誤認の芳しい香りを感じると思いますよ。

PEGアレルギー、きちんと問診されてましたよ?

記事中で「LNPに含まれるPEGが危険」とされていましたが、 接種当初から問診票には「PEGや注射薬でアレルギー歴があるか」きちんと確認項目がありました。
つまり、「あとから思い出したように言う不安」ではなく、 当初からリスク評価され、対応策(接種後15〜30分の経過観察など)も取られていたわけです。

そもそも重篤な副反応として接種後、心筋炎・アナフィラキシーが発生することは行政サイドは臨床試験で把握済みと考えられます。

厚労省配布の予診票参考資料(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000767952.pdf)では、次のように明記されています:

ファイザー社のワクチンに含まれるポリエチレングリコールや、交差反応性が懸念されているポリソルベートを含む医薬
品については、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページで検索することができます。また、ポリエチレングリ
コールは、大腸の検査をする時に用いる腸管洗浄剤、医薬品・医薬品添加物、ヘアケア製品、スキンケア製品、洗剤など、
さまざまな用途に使用されています。
ポリエチレングリコールに対して重度の過敏症の既往が明らかな方は、接種不適当者に該当します。

ひょっとして森田先生はこの文章をお読みになっていない?あるいは当時は記憶が吹っ飛ぶほど医療現場は混乱しましたので、時系列がごっちゃごちゃになってしまったのかもしれませんね。

「ワクチン=危険」へ向かう地ならし、今回も健在

この記事を含めた森田氏の一連の連載には、共通する“構造”があります。

  1. 科学的に見える用語で読者の警戒心をくすぐる
  2. 相関関係や不安要素だけを繰り返し強調
  3. 最後に「○○のせいかもしれない」で締める

これはもはや、「科学的議論」ではなく「都市伝説のレトリック」に近い手法です。

不安を積む前に、論拠の土台を固めてください

科学的な姿勢とは、
「不安を煽ること」ではなく、「わかっていること/わかっていないことを明確に分けること」です。

LNPを使わないmRNAワクチンの開発が進んでいるのは事実。 でもそれは、“不安”ではなく“改善と最適化”の科学的進歩の一部。

赤ペン先生第一弾!⬇️

“日本人の謎の大量死”を叫ぶ記事に、赤ペン先生が入ります!!

“日本人の謎の大量死”を叫ぶ記事に、赤ペン先生が入ります!!

赤ペン先生第二弾!!

「ターボがん」は本当に存在するのか?“症例の印象”から“ワクチン疑念”へ誘導する記事に、赤ペン先生が入ります!

「ターボがん」は本当に存在するのか?“症例の印象”から“ワクチン疑念”へ誘導する記事に、赤ペン先生が入ります!

「赤ペン先生」、次回も出動予定です!・・・予定は未定だけどね。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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