幹細胞は今となっては普通に使われている言葉。しかし、リポソームやエクソソームは医学系研究者レベルでないと普段使いはされない用語です。
コスメ業界では幹細胞どころかリポソームやエクソソームという専門用語がカジュアルに使われていて驚きました。
本記事の内容
いや〜、コスメ業界はすごすぎる。
先日、家族内の約2名が、「エクソソームの方がポイントなのよね〜」「だって幹細胞なんだもん」とかなり高度な再生医療系の話がリビングから聞こえてきました。BSの科学番組でも観ているのかと思って、顔を出したところ約2名がリビングのテーブルで広げていたのはコスメのパンフレット。
当家恒例の、「灯台下暗し」現象を目撃してしまいました。
あのさあ、エクソソームがなんでコスメで関係してくるの?
パパ、あのね、今コスメはエクソソームなのよ、知らないの?
なんでエクソソームがコスメと関係あるの?
パパ〜っ、だって幹細胞コスメの効果はエクソソームなのに知らないの〜〜〜???
こうやって私は家族との距離がどんどん離れていくのでした。
そもそもなんでコスメにエクソソーム(exosome)が関係してくるのかも理解できないですし、それがどうして幹細胞と関連しているのかも、この時点では全く理解不可能。
これでエクソソームがどれだけ小さいかのイメージを掴んでください。
真皮まで浸透するコスメ?
家族1と家族2に無視された私は本を読むふりをして2人の家族の話を聞いていると、どうもエクソソームだと幹細胞が真皮の奥深くまで浸透する、なんてワードが出てきていました。さらにリポソームなる非常にニッチというか高度なワードも家族1&2の間で飛び交っていました。
エクソソームの中にはいまではワクチンにも応用されているmRNA (メッセンジャーアールエヌエー)が含まれていたりします。コスメにmRNAが入っていたら、なんとなく厄介なことが起きそうな悪い予感が⋯。
リポソーム(liposome)を使ったドラッグデリバリーシステムの応用は医学の様々な分野で研究されているのは事実。コスメの化粧水や美容液をいかに奥深くまで届かせることが勝負どころになっている雰囲気はなんとなーく把握はしておりました(なんせ、当院では自費部門として美容外科・美容皮膚科を併設していますので)。
さらになんで再生療法でガッチガチに縛りのある「幹細胞」がカジュアルにコスメに関連してくるのか、私の頭の中は大混乱。
家族1と家族2に説明するレベルでコスメとリポソームとエクソソームと幹細胞の定義や仕組みや役割を解説することにしました。
リポソームとは⋯コスメで応用されそうなマテリアルかも
リポソームは細胞の中身を包み込む細胞膜と似たような構造をしています。
※細胞内に存在するリソソーム(lysosome)と名前が似ているから取り扱いに注意が必要。リポソームもリソソームも高校の生物ででてくるので、下手に覚えていると混乱する可能性あり。
創薬の分野ではリポソームはめちゃくちゃ小さくできることから、薬を包み込むカプセルとして利用され、届けたい病変部へ薬を運ぶ役目に大きな期待がなされています。
これがリポソームを使ったドラッグデリバリーシステム(drug delivery system) です。
ドラッグデリバリーシステムの良い点は例えば抗がん剤を血流に載せて運んで他の正常組織には影響しないで、がん細胞へ抗がん効果のある成分を届けることが可能になります。つまり、副作用を抑えながら効果的にがん細胞を攻撃することが可能になるのです。
コスメで使用されるとしたら、肌に良いとされている物質をリポソームを使ったカプセルでダメージを受けた肌のどっかの細胞を修復するためだと予想されます。
エクソソームがコスメで使用されているとは驚き❗
リポソームがコスメで利用される可能性は多いにあります。しかし、エクソソームまでがコスメで使用されているとは思いもしませんでした。
エクソソームは細胞から分泌されるめちゃくちゃ小さい物質です。大きさは10億分の1メートルを表すナノメートル(nm)を使うレベルです。
※ウイルスの大きさはマイクロメートル(μm)レベル。1マイクロメートルは1000ナノメートルですから、エクソソームがどれだけ小さいのかがイメージできると思います。
多分、コスメの世界ではリポソームより小さいエクソソームを使えば、肌の奥まで美肌成分が届くとの確信のもとに使用されていることが予想されます。
※ちなみに創薬業界ではリポソームの利用に関する研究はすでに多く行われ実用化に対して大いに期待が寄せられています。しかし、私が知る限りではエクソソームを利用したドラッグデリバリーシステムの研究はまだまだ始まったばかりです。
当院保険診療部門を手伝ってくれている永田医師はリキッドバイオプシーの研究に関する論文でエクソソームについても触れています。
どうやってコスメの成分や幹細胞をエクソソームを使って運ぶんだ?
テレビCMを見る限りでは、コスメはいかに肌の奥深くまで美容成分が浸透するかが勝負どころになっているように思われます。
一方で幹細胞を使用した再生医療が注目を浴びてかなり長い年月が経過しているけど、クリニックレベレで使用される幹細胞の効果・効能は正直なところまだまだ。例えば厚生労働相のウェブサイトにある、再生医療等提供機関一覧でも当院五本木クリニックは第三種の治療に分類されてはいても、3ランクに分けられた中では最低ランクです。
ここで話は出だしに戻ります。
家族1と家族2の話によれば、
- コスメの有効成分である幹細胞をエクソソームを使って運ぶ
- コスメの有効成分をエクソソームに包み込んで運ぶ
のいずれかのように私には聞こえてきました(たぶんそのコスメを販売している人に説明してもらったことを、パンフレットを読みながら2人の家族が吟味しているレベル)。
1の場合は無理です、不可能です。なぜならばエクソソームより小さい細胞なんて無いもん。
2の場合はあり得るかもしれませんが、少なくとも医学の世界というか創薬の世界では未だに実用化はされていません(これ、ひょっとすると今の今、世界中のどっかの製薬会社が実用化している可能性がゼロとは言い切れないけどね)。
そんなことより、コスメに幹細胞を入れ込むことなんて、できるわけないじゃん❗医療機関でさえ、幹細胞の取り扱いは厚生労働省に厚さ1センチメートルにも及ぶ書類を届け出る必要があります。
コスメのユーザーがいちいちそんな書類を厚労省に提出するワケないもんね。
コスメはある程度、夢を売る商売だと思います。夢を与えるビジネスであり、ある程度盛った表現も大人の対応でやり過ごすのが吉であることも、今の私は学びました。
もしも、エクソソーム中になんらかの遺伝情報が入りこんでいて、何らかの働きをするのであれば、素晴らしい効果が期待できるとともに何らかの大問題が生じるような気がしないでもないです。
ちなみに「エクソソーム 化粧品」で検索してみると、エクソソームはコスメ業界では水やグリセリンやヒアルロン酸と同じレベルで実用化されていて、恐るべしコスメ業界❗と再認識しました。