無痛分娩のリスクが気になる方へ、なんでもかんでも自然派がいいわけではありません!!

出産は痛いもの、だからこそ「お腹を痛めて産んだのにお前はこんなにお母さんの言うことを聞かなくて」的な時代掛かったセリフを最近はとんと聞かなくなりました。

今ではお腹を痛めないで出産が可能であり(少々誤解あり)、それを無痛分娩と呼んでいます。

最近、なんだか無痛分娩の危険性が話題になっているけど

無痛分娩を選択した母親あるいは勧めた医師が肩身を狭くしなければならないような状況が若干見受けらます⋯人間は何千年も前から痛みを伴って赤ちゃんを産んできた、それを無痛分娩なんて許しません(キーッ)的な自然派原理主義者の意見も聞こえてくるような気がしないでもありません。

最近、無痛分娩に伴い死亡事故が数件報告されたためにマスメディアも無痛分娩のリスクを大々的に取り上げ、また無痛分娩にともなるリスクを十分に医師が説明していないのではないかとの疑問も出ています。

少子化の時代、出産は一大イベントであり必要以上にラグジュアリーな産院の登場と芸能人が無痛分娩を行い出したことを芸能番組等が取り上げることが多くなってきたことも無痛分娩が流行り出した大きな原因だと私は個人的に考えています。果たして無痛分娩ってそんなに危険であり、不自然な出産方法なんでしょうか?

セレブ御用達病院で無痛分娩が流行り出したような気がするけど⋯

今ほど少子化が騒がれていない時代に芸能人いわゆるセレブと呼ばれる人たちがある特定の病院で出産する傾向がありました。まあ、そんな産婦人科はセレブ御用達と呼ばれ、一般の方も一生涯で数回しか経験できない出産だから少々値段が張っても、憧れのなんとかちゃんやあのなんとかさんが出産した病院で赤ちゃんを産みたい、と言う女性の心理をバッチリ掴んだ◯王病院とか聖◯加病院がブームになりました。

中にはお姫様が住んでいるような内装の病院とか、アロマセラピー付きのクリニックまで登場して、私個人的にはちょっと違和感を覚えたものです。そんなセレブがお好きな病院がお得意としていたのが無痛分娩です。

無痛分娩は硬膜外麻酔と呼ばれる腹部の手術では当時でも当たり前に使用されていた方法であり、全身麻酔下で開腹手術した場合、手術跡の痛みをコントロールするために補助的な麻酔方法として選択されることが多かったはずです。硬膜外麻酔のチューブに麻酔剤を注入することで、手術の次の日から痛みを気にしないで動けるために社会復帰を早めるとの利点もあります。

一般的に言われている麻酔事故による死亡は10万例に1例とされていますが、全身麻酔ではなく局所麻酔の一つと考えらえている硬膜外麻酔が原因と思われる死亡例がここ7年間で13人亡くなっており、その中の一人は麻酔による中毒死であることが公表されました(厚生省 無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築について等)。

出産は痛くて当然、それを麻酔で抑えるからそんなことになるんだ、ってヘンテコリンな考え方をもつ自然派信奉者の意見がこれからバンバン出てくることを予想します。

麻酔のリスクよりも、出産のリスクも考えないとマズいんじゃないの?

今の日本人には考えにくいことかもしれませんが、出産って母親が命を懸けたものなのですよ。例えばシエラレオネでは10万人の赤ちゃんが生まれてくるために1360人の母親が命を失っています。米国は14人、韓国11人、日本でさえ5人(unicef 世界子供白書2016 より)。開発途上国とされている国々の場合、医療機関の少なさや衛生問題、栄養問題などが主な原因でしょうけど先進国でさえ出産時に死亡するお母さんは0ではないのです。

日本だって昔はこんなに出産時に母親が亡くなっていました。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1120-11n_0002.pdf

医療技術の進歩や生活環境の改善が死亡率を下げている大きな原因と考えられますが、ここ数十年でもこれだけ減少傾向にあるのです⋯これは産婦人科医の努力の賜物でしょう。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1120-11n_0002.pdf

しかし、ある出産に伴う事故によって産婦人科を目指していても、産科は取り扱いたくない傾向が出てきてしまっています(微妙な問題であるのでご自分で「大野病院 前置胎盤」などのキーワードで検索してくださいませ)。

無痛分娩は安全なの?危険の?どっち?

ここから少しフェルミ推定的に無痛分娩を考えてみます。

というのも実は無痛分娩に対するガイドラインは2017年現在作成中であり、実態も完璧に行政や学会が把握している訳ではないからです。毎年、100万人の赤ちゃんが生まれていると仮定すると今回の無痛分娩で13名の方が亡くなったのは7年間のデータですから死亡率は13/700万です。

2017年6月25日の毎日新聞の記事によると日本で無痛分娩が行われているのは2.6パーセント。700万×0.026 = 18万2000人の方が無痛分娩を行なっていたことになります。前述の麻酔事故による死亡率である10万人に1人で考えると無痛分娩による死亡数全体は多めに感じられますが、無痛分娩時の麻酔薬が原因である中毒で亡くなった方は1人、であり大きな差は無く感じられます。

日本の出産時の死亡率を5人/10万人と考えた場合、18万2000人が無痛分娩を受けているとしたら、死亡数は9人くらいになります。無痛分娩による出産時の死亡数は13人ですから若干多いことに計算上はなります。だからこそ、厚生労働省研究班が無痛分娩に対して緊急提言をおこなったことも十分理解できます。

しかし、このデータを丸呑みしてはいけません。なぜなら無痛分娩を選択した方の年齢のデータがないのです。実は年齢が上がれば上がるほど妊婦さんの死亡率は上がります。

http://www.jaog.or.jp/all/document/80_141015_b.pdf

毎日新聞の記事によるとフランスでは80パーセント、米国で60パーセトの方が無痛分娩を選択しています。日本も早くデータを集めて、実際に無痛分娩は安全なのか、安全でないのかの結論を出すべきです。第一今現在どのような施設で無痛分娩がどれだけの数行われているかさえ明確なデータが存在しないのですから⋯。

お詫び:長ったらしいブログになってしまい、無痛分娩のメリットを書くの忘れちゃいました。日を改めて書かせていただきます 

執筆者情報

桑満おさむ医師

このブログ記事の筆者:桑満おさむ
Osamu Kuwamitsu, M.D.

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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