メディアが熱中症対策を伝えることが原因の「マスコミ頻尿」って知っていますか?

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夏になるとマスコミは熱中症に注意しましょう、脱水に注意しましょうとしきりと伝えます。

熱中症や脱水対策として、しきりと飲水をすすめるだけであると、頻尿、特に「夜間頻尿」の原因になりかねません。毎年6月から9月に掛けて頻尿を主訴として泌尿器科を受診する患者さんが増加します。そんな社会現象を泌尿器科医はマスコミ頻尿と呼んでいます。

頻尿の原因の一つとして「水分のとりすぎ」ということも少なくはありません。熱中症や脱水を避けるための正しい水分補給について泌尿器科医としての注意点を多くの方に知ってもらいたいです。

夏になると囁かれる「マスコミ頻尿」と呼ばれる病気というか症状がありまして⋯

2018年夏、異常ともいえる猛暑に襲えわれている日本列島です。猛暑にともなる社会問題として、熱中症があります。メディアがしきりに熱中症対策を呼びかけていることは多くの方がご存知ですよね。最近は熱中症対策として塩分補給の重要性も叫ばれていますが、基本としては水分補給が大切と受け止めている方が多いと感じています。ブログの読者の中には私の専門が泌尿器科であることをご存知ない方も多いようですが

夏になって泌尿器科を受診する人で目立つ症状が頻尿です

頻尿の主な原因として過活動膀胱という病気があります。この過活動膀胱は製薬会社の猛烈な広報活動によって、ここ10年くらいで一般の方にも広く知れ渡る病気とも言えます。そのためか受診前のアンケートというか問診票にご自分で「過活動膀胱の治療」と診断?される患者さんも目立つのが、暑い暑い夏の風物詩ともなっていることは多くの泌尿器科医が経験しているところです。

しかし、この頻尿を主症状とする過活動膀胱、特に夏場の頻尿の多くの原因が多飲であることも泌尿器科医にとっては常識となっています。つまりメディアが熱中症対策、熱中症予防として水分補給を、水を飲みましょう❗的な情報をじゃかじゃか流すことが夏場の頻尿の原因となっていることが少なくないのです。この現象を「マスコミ頻尿」なんて言葉で泌尿器科医たちは呼んでいます。

水分補給に関してこんな話題を先日ブログにしました。

熱中症対策にはポカリスエットとアクエリアスのどっちが有効なのか問題を医学的に検証しました。

熱中症対策にはポカリスエットとアクエリアスのどっちが有効なのか問題を医学的に検証しました。

熱中症対策の為に飲むのはポカリスエット、いやアクエリアスでしょ、と意見が分かれる2大巨頭。ポカリスエットは体調が悪いときの栄養補給、アクエリアスは運動後の疲労回復とメーカーの商品コンセプトが異なります。どちらも夏の熱中症対策に欠かせない飲み物ですが、ポカリスエットとアクエリアスでより効果があるのはどちらでしょう?

やたらめったらに水分を摂ることが原因で頻尿になってしまうことが少なくありません。

安易な熱中症対策である「水を飲みましょう」の問題点

年を取ればおしっこが近くなる、つまり頻尿になることは以前は常識であり、それを病気として捉える患者さんも医師も少なかったのですが⋯頻尿はもとより夜間頻尿は生活の質を落とす原因であるとともに、製薬会社が過活動膀胱治療薬を相次いで開発したことも大きく影響していて(製薬会社と泌尿器科医との陰謀じゃないよ)、頻尿は治る病気として認識されだしています。

マスコミ頻尿

日本臨床内科医会「過活動膀胱」より  このグラフは「排尿に関する疫学的研究」日本排尿機能学会誌(14:266-277 (2003) より)のデータを元として作成されています。なんと

頻尿を主な症状とする過活動膀胱の患者さんは国内で810万人❗

これは繰り返しますが2003年に書かれた論文が基礎となっていますので、2018年時点ではもっと多くの患者さんがいることが予想されます。この

過活動膀胱に関連する医療費は1809億円❗経済損失は1兆円近くとの推計もあるんですぜ

保健医療制度が限界というか実質破綻しているとも考えられている日本、2000億円近くの頻尿関連医療費の原因の一つがマスコミ頻尿だとしたら⋯。

過活動膀胱の医療費

日泌尿会誌,99巻,7号,2008年: 713~722 「過活動膀胱の医療経済」より

熱中症対策は水をガンガン飲めばいいってワケでは無いのです❗

必要以上に水を飲めばそりゃ尿の量も増えますし、尿の回数も増えるって。

さらに水中毒と呼ばれる状態の原因にも多飲はなりかねません。

過活動膀胱に関してはこちらをどーぞ→過活動膀胱 (Over Active Bladder) とは

マスコミ頻尿の悪影響はこんなにあります

ここ一ヶ月ほど日中の頻尿と夜間頻尿を主訴として来院された患者さんから聞いた話で、デイケアで職員から毎日2000ml飲みなさい、と指導されたとのこと。その患者さんは小柄な85才の女性で体重は35キロ、そんな小柄なおばあちゃんにとって2リットルの水分補給が日課として指導されていたのです。高齢になると運動量は当然落ちますし、腎機能も低下しています。そんな方に水分を過剰に負荷すると身体が浮腫んで当然ですし、腎機能の悪化も心配になってきます。同じように大量の飲水を医療従事者以外家族からも勧められている人も多数です。

メディアで熱中症対策が報道されて、水分補給を気にし過ぎて

熱中症にならないように用心して毎日4リットルもお茶やポカリやアクエリアスや水を飲んでいた患者さんも経験しています

多飲が原因で夜間頻尿になっていることに気づかない医師によって、過活動膀胱と診断されて処方を受けおしっこが出ない状態である尿閉になって受診された高齢者もいます。

夜間に頻回に目がさめることを主訴として近医を受診して睡眠薬を処方されていた患者さんもいました⋯夕食後から寝る前までに熱中症予防として、お茶を約1.5リットル飲むことを習慣としていたそうなんで、そりゃ寝ている最中におしっこに複数回起きちゃいますって。じゃあ飲水の目安はどのくらい?との素朴な疑問が出てきます。

適切な飲水量は尿量で考えるべき

体内で水分が足りなくなると、当然尿の量も減少してきます。健康的な尿の量ってご存知でしょうか?

泌尿器科医が考える適切な尿量は体重×30ml⋯体重60キロであれば1.8ℓの尿が出ていればOK

腎機能が正常である方の目安ですからご注意を。でも、ご自分の尿量を毎日毎日測定している人は滅多に見かけません。膀胱はだいたい200から300mlの尿を貯めることができますので、一日8回程度気持ちよく尿が出ていれば、ひとまずは安心してください。

夏場になって極端に尿量が減っていたり、4-5時間もおしっこに行かないような状態なら水分が足りない可能性も出てきます。さらに熱中症対策として水分の補給ばかりに目がいきがちですが、熱中症の正体は脳が体温管理ができなくなってしまうことなのです。その対策としては高温と多湿に気をつける必要があります。猛暑の最中には不必要な外出は控えて、エアコンが十分効いた室内でだらだら過ごすのが一番良さそうな気がしないでもないのですが⋯。

お時間がありましたらこれもどーぞ。

熱中症に注意❗脱水の応急処置で「点滴お願いします」は大間違いです。

熱中症に注意❗脱水の応急処置で「点滴お願いします」は大間違いです。

熱中症による脱水症状で死亡する人が多数出ますが、脱水とヒトコトで片付けるのは危険です。脱水にも種類があるのです。点滴が一番効くと信じている人も多いので、きちんと医学的に正確な情報を解説しておきます。脱水の重症度には見分け方があるのです。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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