突然、外国語訛りを喋り出す外国語様アクセント症候群とは?

「世界の奇談」などの世界中の不思議な話を集めた本が書棚に並んでいる私ですが、最近このような報道を目にしました。

手術を受けた豪女性、目覚めると「アイルランド英語のアクセント」に

手術を受けた豪女性、目覚めると「アイルランド英語のアクセント」にCNN

外国語様アクセント症候群とはどのような症状なの?

CNNの報道によれば

扁桃(へんとう)摘出手術を受けた数日後、目が覚めるとアイルランド英語のアクセントになっていた――。オーストラリア人の女性がそんな珍しい症状を明らかにした。

https://www.cnn.co.jp/fringe/35170745.html

この外国語様アクセント症候群は英語だと「Foreign accent syndrome」、略してFASと呼ばれ医学専門雑誌にもいくつかの症例が掲載されています。外国語のアクセントと言ってもピンとこないけど、日本語の場合で考えてみると関西弁の人がいきなり東北弁になるのとはちょっと違っているようです。

外国語様アクセント症候群になってしまった人たちには申し訳ないけど、面白い症例なのでちょいと調べつつ解説してみますね。

いきなり異国の言葉を喋り出すわけではない外国語様アクセント症候群

私は少年少女向けの雑誌で病気になったり怪我をして回復した途端に外国語を話し出した人の記事を読んだことがあるような古い古い記憶があります。たぶん、この外国語様アクセント症候群を盛った話だったんでしょうね。

最近では、2016年の「Case Reports in Psychiatry 」に「Foreign Accent Syndrome, a Rare Presentation of Schizophrenia in a 34-Year-Old African American Female: A Case Report and Literature Review」[1](PMID: 26925283)との症例報告が掲載されています。

  • 外国語様アクセント症候群は稀だが100以上の症例が報告されている
  • 精神疾患がある患者さんの症例がいくつかある
  • 生活したことのない国のアクセントを話し出す
  • 外国語様アクセント症候群の原因として神経性、心因性、混合型の三つが考えられている

とアブストラクトに記載した後に統合失調と心因性によって発症した外国語様アクセント症候群の症例が報告されています。

脳卒中の後遺症として外国語様アクセント症候群は発症することが多い

前掲の論文中にあった神経性(neurogenic)や心因性(psychogenic)による外国語様アクセント症候群を考える上で「Foreign accent syndrome: anatomic, pathophysiologic and psychosocial considerations」[2](PMID: 15909696)が参考になります。

この論文によれば外国語様アクセント症候群は音声の分節的特徴と韻律的要素の混乱が原因となっているようです。

分節的特徴と韻律的要素というあまり見慣れない言葉は「日本語の発音―教室での気づきから」(林良子著)や「単音と韻律が日本語音声の評価に与える影響力の比較」(佐藤友則著)には以下のように書かれています。

  • 分節的特徴とは、例えば日本語の場合だと「ウ」が外国語の「u」とは違っていること
  • 韻律的要素とは、高さ・長さ・強さ、のこと

ここまでの分かったこととして、外国語様アクセント症候群って要するにはっきり発音していなかったり、聴き取りにくい言葉を発しているだけのように感じちゃうのは私だけでしょうか?

日本人の外国語様アクセント症候群の症例もあります

私の母校である横浜市立大学医学部の研究者による、「Foreign accent syndromeについて」(神経心理学 34 (1) , 45-62, 2018)では外国語様アクセント症候群に関し、次のようにまとめています。

同じ母国語を使用する第三者が”外国語のようだ”という違和感を持つような発話障害を特徴とした症候群である

そして、日本人の場合はアクセントが英語型と中国・韓国語型の2つに分類されることがほとんどとのことです。

なぜ脳卒中後にこのような症状が出るかについては、日本人は義務教育で英語を習うこと、生活圏で外国語に接することが多いからと考えられているようです。

そもそも外国語様アクセント症候群はいつ、誰が言い出したんだろう?

いきなり外国語で喋り出すかのように感じられる外国語様アクセント症候群ですが、なんとなーくハッキリ発音していなかったり、音声の高い低いによって、地元の言葉というか訛りじゃなくなった病状のようにも見受けられます。そうなると、そもそも誰がこの症候群を報告したのかが気になってきますよね。

「Foreign Accent Syndrome As a Psychogenic Disorder: A Review」[3](PMID:27199699)を参考とすると、1907年に「Présentation de malades atteints d’anarthrie par lésion de l’hémisphère gauche du cerveau」という論文がMarie P.という人によって書かれたようです。これの原文を見つけることができないので、明確ではないですが、私が子供の時にみた記憶のある、突然外国語を喋り出した人の不思議なお話はこの辺りが一次ソースであった可能性がありますね。

この論文にも書かれているように、外国語様アクセント症候群って神経原性がほとんどなんで、CNNが報じた手術後に突然アイルランドのアクセントで話し出したオーストラリアの女性の場合、術中に何らかのトラブルが生じたのかも知れません⋯そうなると訴訟とかになるのかなあ???

おまけ

小池都知事が「ぴーすぃー⤴︎あーーー⤴︎」って言うのもこれか(笑)。

参考文献

  1. Asogwa K, Nisenoff C, Okudo J. Foreign Accent Syndrome, a Rare Presentation of Schizophrenia in a 34-Year-Old African American Female: A Case Report and Literature Review. Case Rep Psychiatry. 2016;2016:8073572. doi: 10.1155/2016/8073572. Epub 2016 Jan 26. PMID: 26925283; PMCID: PMC4746356.
  2. Munson PD, Heilman B. Foreign accent syndrome: anatomic, pathophysiologic and psychosocial considerations. S D J Med. 2005 May;58(5):187-9. PMID: 15909696.
  3. Keulen S, Verhoeven J, De Witte E, De Page L, Bastiaanse R, Mariën P. Foreign Accent Syndrome As a Psychogenic Disorder: A Review. Front Hum Neurosci. 2016 Apr 27;10:168. doi: 10.3389/fnhum.2016.00168. PMID: 27199699; PMCID: PMC4846654.

執筆者情報

桑満おさむ医師

このブログ記事の筆者:桑満おさむ
Osamu Kuwamitsu, M.D.

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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