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意識高い系のメンタルコーチ兼美容家の勧める万能薬が怪しい。

更新日:

和興白花油という香港の民間治療薬があります。

タイガーバームのように愛されている薬局で手軽に入手できるものです。

意識高い系の美容家さんは気軽に経皮吸収と言うけれど⋯。

この和興白花油を入手した美容家兼メンタルコーチであるブロガーさんがこんなブログを書いています。

ワタナベ薫のLINEブログ万能薬

https://lineblog.me/watanabekaoru/archives/9448914.html

経皮吸収って本当にあるんですね。胃が痛くてもこれを塗ると私の場合、痛みが5分後に消えるのです。

この美容家さん、カジュアルに「経費吸収」との医学用語を使用していますが、この経皮吸収に至るまではそんじょそこらの努力では現代医学・薬学技術を持ってしても乗り越えられない高い高い壁が存在しています。

この美容家の方が「経皮吸収って本当にあるんですね」と使っている経皮吸収は多分、私たち医師が使っている医学用語の経皮吸収とは別物であり、下手すりゃニセ医学である「経皮毒」に巻き込まれてしまう可能性があるので注意が必要です。

薬剤の経皮吸収には500ダルトンルールと呼ばれる障壁があります。

皮膚に薬を塗った場合、成分が皮膚の中に入り込むためには分子量が小さいことがマストです(だって、手についたケチャップやマスタードがいつの間にやら体内に入り込んだら困りますからね)。

経皮的にある物質が体内に吸収されるためには500ダルトン(ダルトンは英語では「Dalton」)。ダルトンは厳密には分子量とは違いますが、ダルトンが大きくなれば分子量が大きくなり、ダルトンが小さくなれば分子量が小さい物質であると考えるのは間違いでは無いので、その前提で話を進めてまいります。

分子量が大きくても皮膚に塗るとスースーと清涼感が得られる物質してメントール(Menthol)があります。このメントールの分子量は156.2652ですから500ダルトンルールをクリアしたことになりますよね。

しかし、皮膚から入り込んだメントールが体内でどのように内臓などの器官に働きかけ、何らかの薬効を示すための血中濃度などに関しては信頼たるデータは存在していません(医薬品インタビューフォーム  「日本薬局方 l-メントール 」 http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=7149004X1117などによる)。

基本的にメントールは局所に塗ることによって皮膚刺激作用と局所麻痺作用があると言われており、体内に吸収されてどのような代謝経路を辿って体外に排出されるかは明確にはなっていません。

動物実験では牛にメントールを含む餌を与えた研究があり5.5%は糞として80.6%はそのまま代謝されないで尿となって排出されるとの報告があります(「ペパーミント給与乳牛におけるℓ-メントールの動態」農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター)。

メントールによりスースーした冷感が得られるのは、皮膚の温度を下げるためではなく、冷感を引き起こす受容体を刺激するためである点に注意が必要です。発熱時に冷えピタを貼っても体温が下がらないのはそのためですから。

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万能薬(?)和興白花油の成分と効果・効能はこれ。

以前、香港だか台湾だかでこの和興白花油をブログネタとして購入してきたのですが、ここ一年半の外出自粛生活で、「たまにはガラクタの整理をしなさいよ、キーっ」との声がけがあったので捨ててしまったようです。

ネット情報等を参考にして和興白花油の成分を羅列してみると、

  • 薄荷冰…ミントエッセンス
  • 冬青油…ウィンターグリーンオイル
  • 桜葉油…ユーカリオイル
  • 樟腦…カンファー
  • 薫衣草油…ラベンダーオイル
  • 白蜜蝋・凡士林などなど

です。

この美容家の方がおっしゃるように薄荷やユーカリオイルのように経皮吸収される成分が多く含まれています。

でもさあ、お腹が痛い時に和興白花油をお腹に塗っても、それはお腹の皮膚に冷感があってスースーするだけであり、腹痛自体を抑える効果が発揮するとは思えないのです。経皮吸収された薬剤は血行に乗って体中を駆け巡りますので、腹痛の原因であると思われる胃や腸に塗った部分から直行はしません。

さらに、腹痛を抑えるだけの十分な濃度を維持したまま有効成分が胃や腸に届くわけないじゃん❗

気になる成分カンファーはかなりリスクがあります❗

和興白花油のもう一つの主成分である樟腦(カンファー、カンフルとも呼びます)はメントールよりリスキーです。例えば樟脳はクスノキから取れる物質であり、防虫剤として有名です。

クスノキ以外のアロマオイルにも含まれていることがあるのですが、血行促進効果などがあるために昔は強心剤として使用されていました。だから今でも比喩的に「カンフル剤を打つ」とか「カンフル」効果とか使われることがあります。

このカンフルを一定量以上摂取すると神経症状の副作用が出てしまい、無呼吸や精神錯乱が生じてしまうことがあります。

「Are one or two dangerous? Camphor exposure in toddlers」[1](PMID: 15219304)によれば少量であっても小児を樟脳つまりカンファーに曝露させることはリスキーであるとの結論になっています。

某マルチ系アロマではアロマの効果を示すために、アロマオイルを飲ませることさえあるようです。

アロマ系飲料を飲んでウンチが緑色にならないと病気、って話が怪しすぎる。

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アロマが女性の間でちょっとしたブームになっています。アロマの香りを楽しむことによって、気分をリラックスさせる効果は多くの医学的研究によって確かめられています。しかし、アロマによって病気を治すはちょっと誇大表現気味。なかにはアロマオイルを飲むことによって健康状態がわかる、という怪しげな商法まで出現しています。

万能薬だと思って、和興白花油を飲んじゃうと重篤な副作用を起こしてしまう可能性がありますので、くれぐれもご注意くださいね。

意識高い系のインフルエンサーは、なぜ医者っぽい医療行為や医学用語っぽい言葉を使いたがるのでしょうか?

この美容家兼メンタルコーチ兼インフルエンサー(自称だったか、他称だったかは忘れた)の方と、私は以前一悶着がありました。

ワタナベ薫さんが受けた美容医療「幹細胞で皮膚を若返らせる」は疑問だらけ❗

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幹細胞で皮膚を若返らせるというフレーズを鵜呑みにしてはいけません。もっともらしいですがニセ医学です。幹細胞には、胚性幹細胞(ES細胞)、成体幹細胞、iPS細胞などに分類されます。ざっくりと幹細胞と言われても具体的ではありません。美容の世界でなぜ幹細胞というワードが多用されるのか?なぜ効果ないといえるのか解説しましょう。

ご本人はカジュアルに「幹細胞」との言葉を使用してしまいましたけど、医療機関で幹細胞を取り扱う上では再生医療法という厳しい法律に縛られ医療機関も分厚い書類を作成してお役所に届け出る必要があります。

ある医師がこの件が以前から気になって当該のクリニックに尋ねたところ、そこのクリニックのスタッフ(医師ではないと思うし、医師だったらかなりヤバい)も幹細胞の定義さえ知らないことが後日判明しています。

医学の素人であるこのブログをお書きになっている意識高い系の方はなぜか医学用語風の言葉を使う傾向があり、自分が最先端の医療に携わっているムードを醸し出してしまう癖があるようです。今思い出しましたけど、ある意味で水素水ビジネスの犠牲者とも言える方と私とのやりとりはブログ記事にしました。

水素水にまつわる不思議な話、「論文提示して❗」「業務休止しました」なんじゃこりゃ⁉追記あり

水素水にまつわる不思議な話、「論文提示して❗」「業務休止しました」なんじゃこりゃ⁉追記あり

水素水という一大ムーブメントがありましたが、当然のことながら無意味でしたのでブームが終息しました。以前、水素吸入装置「スイソニア」を販売していた会社の社長とtwitter上でやり取りしたのですがいきなり業務中止になりました。その時の顛末についてお話します。

この方もそういえば、今回取り上げた美容家さんをメンターとしていましたっけ⋯まあ、類友なんでしょうね。

しかし、この手の方々って、なぜ健康医学情報を発信したがり、なんとなーくお医者さんっぽいことをしたがるだろうなあ、と思うことがしばしばあります、なんでだろう?

参考文献

  1. Love JN, Sammon M, Smereck J. Are one or two dangerous? Camphor exposure in toddlers. J Emerg Med. 2004 Jul;27(1):49-54. doi: 10.1016/j.jemermed.2004.02.010. PMID: 15219304.
 

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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