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泌尿器疾患の薬「セルニルトン」は花粉エキスが成分の古い薬だからポンコツなのか?

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セルニルトン錠(Cernilton tablet)という古いふる〜い泌尿器科領域の処方薬があります。

古い薬がダメで新しい薬が優れてるとは限らない典型例として愛すべきセルニルトンについてご紹介します。

最新の医学研究から生み出された薬とは言い切れない「セルニルトン」

前立腺疾患治療薬「セルニルトン」の効果

セルニルトンには聞くも涙、語るも涙の開発秘話があるのです。昔々スウェーデンでは花粉が身体によいとされていたそうです。1960年(1959年説もあり)にDr Ask Upmarkが花粉から抽出した製剤であるセルニルトンを前立腺炎の治療に使用して有効性を示しました。

1960年説は「医薬品インタビューフォーム」の前立腺疾患治療剤セルニルトンによる。一方の1959年説は「Research The treatment of disorders of the prostate with the rye-grass extract ProstaBrit」(The Infona portal toiuに掲載されていたP.J.R. Shahによる資料)。

その後Leanderという人が1962年にセルニルトン錠のダブルブラインドテストを行なって有効性を確認したと医薬品インタビューフォームには書かれているけど元の論文は今のところ見つけることができません。

古い薬って実は蓋を開けてみるとざっくりでその有効性が本当なのか疑われてしまう点がセルニルトンの悲劇です。

確か扶桑薬品のMRさんだったか、にセルニルトンの有効性を確かめた人は慢性前立腺炎を患っていたと聞いた記憶があるのですが、Ask UpmarkさんなのかLeanderさんなのか知りたいところです。

セルニルトン錠の国内における臨床効果の成績

いつの間にやらどさくさ紛れに日本でセルニルトン錠が承認され薬価がついたのが1969年で臨床効果は

比較試験を含む国内臨床試験報告23報、総計498症例における有効率は前立腺肥大67.5%(135/200)、慢性前立腺炎63.8%(190/298)で、排尿困難、残尿感、排尿痛等の自覚症状及び他覚所見に改善が認められた。

医療用医薬品 : セルニルトン KEGG

とのことです。めっちゃ効果的ではないけど、効く人には効くという現在の泌尿器科医のインプレッションと同じですね。

1992年の「慢性前立腺炎に対するセルニルトンの臨床効果」(泌尿器科紀要 (1992), 38(4): 489-494)は群馬大学医学部附属病院泌尿器科で行われた結果だと自覚症状の改善率は50から100%!!と驚異的な成績になっています(これはツッコミどころ満載のような気がしないでもないけど、先人の仕事にケチはつけられないという忖度という大人の対応をしておきます)。

セルニルトン錠に薬理効果があってもこれではちょっと・・・。

セルニルトン錠の薬理効果を調べた「Cernitin pollen-extract(Cernilton(R))の無麻酔下ラット膀胱機能に対する作用」(薬理と治療 26(11): 1801-1806, 1998.)によれば去勢ラットを使って炎症性細胞を抑制したらしいけどこれは今だったら利益相反(conflict of interest:COI)でちょっと問題になるかもしれないもの。

少なくとも相手がラットでは前立腺炎の主症状である排尿時の痛みを聴取することはできないし、お尻から指を入れて前立腺を触診することも不可能ですね。

ラットを使って膀胱機能や抗前立腺肥大作用などでも確認されているので、理論上はセルニルトン錠は前立腺炎に効果があるはずでね。

そもそもセルニルトン錠の主成分の花粉とはどのようなものなのか?

セルニルトン錠1錠中セルニチンポーレンエキス63mg(セルニチンT-60:60mg、セルニチンGBX:3mg)です。ここから窺い知ることができるのはセルニチンT-60が肝(キモ)であること。福岡県薬剤師会によれば

セルニチンT-60は植物(チモシイ、トウモロコシ、ライムギ、ヘーゼル、ネコヤナギ、ハコヤナギ、フランスギク、マツ)の花粉の混合物を微生物消化した後、水で抽出して得た粉末エキス

https://www.fpa.or.jp/johocenter/yakuji-main/_1635.html?blockId=40260&dbMode=article

であり、セルニチンGBXは

有機溶媒抽出の軟エキスである。

とあっさり書き流されている状況。セルニルトン錠の主成分の詳細に関しては薬剤師の先生などの薬理の専門家にお任せするとします。

セルニルトン錠は慢性前立腺炎に効くのか、効かないのははっきりしろ!!

私は東京都の西のエリアでセルニルトンの処方量が一番多かったこともありますし、今でも処方量はかなり多いと思います。効かない薬を処方していたら患者さんはきません。

セルニルトン錠の慢性前立腺炎に対する効果を期待して処方し続けているのであり、もう一つの適応症である前立腺肥大には現時点では全く期待はしていません。

新しい薬が必ずしも患者さんの症状に適応しているわけではありません。でも古い薬だからといってポンコツとは限りません。そのようなことを思い返してくれるのが前立腺疾患治療薬「セルニルトン」です。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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