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【文春砲】「尿一滴でわかる線虫がんを使ったがん検査」の問題点

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線虫を使ったがん検査に関しては私は以前2020/2/17付け共同通信の47NEWSに以下の寄稿をしたことがあります。

話題の「尿1滴でがん検査」に医師が鳴らす警鐘

この線虫がん検査の問題点が今さら的に2021年12月9日に文春砲を喰らった模様です。

精度86%でがんを早期発見、そもそも精度の意味は何?

臨床検査における精度とはみなさんが一般的に考えている精度とは意味が若干違うことに注意が必要です。臨床検査における精度は使用する検査方法の精密さ・正確さを伝える言葉であり許される範囲での誤差を含んだものです。

精度に問題が生じる原因として検査機器の不調・検査する検査技師のテクニカルな差・検査する検体の保存状況などが考えられます。

線虫という生体を使用して検査をする上では、それらの線虫がかなりの確率で均一な性質をもっている必要は当然ですし、検査の結果を判定する人間の思い込みなどを排除しなければ高い精度が得られるはずはありません。

しかし、今回週刊文春で問題視されている線虫によるがん検査報道では、記者が精度に関して質問をしたにも関わらず代表は感度に関する回答するというトンチンカンなやりとりが書かれています。

でもさあ、少なくともここにはしっかりと「精度86%の自宅でできるがん検査」って書かれているよねえ

線虫を使ったがん検査の精度は86%

https://lp.n-nose.com/

この「精度」をがんがあった場合に正しくがんがあると判定したために、「感度が86%である」との使用しているのであれば問題はありません。ところが、医学上臨床検査で使用される「感度」はこれまた一般の方がイメージする感度とは別物なのです。

広津代表は感度86%と言っていない!と主張するけど

感度の定義は「ある病気だと陽性として判定すること」ですから、がんでは無い人たちの尿全てに対して線虫が、「がんである」と判定しても誤診では無く、医学上の検査で使う感度に対しては全く影響は出てきません。全例に対して「がん判定」をした場合、みなさんが納得しようがしまいが感度は100%になってしまうのですからね。

そもそも私が線虫を使ったがん検査が気になったのはこのようなトンデモさんがいたからなんです。

【緊急告知】尿一滴だけで「がん」発見⋯この検査キットを美容室に斡旋している学会を発見❗

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尿一滴でがんを発見できるかもしれないというセンセーショナルなニュースを見た記憶ありませんか?尿1滴採取するだけでがんを発見!という画期的なガン検査システムといった夢だけはありそうなビジネスが出てくるわけですが、身近な美容室やサロンに検査キットを斡旋する医学系学会があるのです。研究段階でしかないのにです。

この2017年4月のブログ記事に関して、当時今回文春砲を喰らった九州大学在職中の広津先生から、「これは困っているんだよねえ」なんて嘆きのメッセージをいただきました。今回、文春の記事に困っているんだよねえ、とメッセージをいただいてもこっちが困っちゃいますけど。

がんに対する感度86.3%が意味しているもの

広津代表は取材に対してこのように述べています。

私は実用化したものが感度86%だなんて言っていませんよ! 臨床研究のデータではこの結果が出ていると言っているだけです。CMにもそう書いています

週刊文春2021/12/08

それに対して取材者は

商品化されたものは、精度86%ではない?

週刊文春2021/12/08

広津代表は「感度」と言い、取材している方は「精度」と尋ねている不毛なやりとりが続いています。

せめて後述する陽性的中率という専門用語を使ったやりとりであれば、問題の確信に触れることができたかもしれません。

検査では「特異度」という専門用語も重要なポイントとなります。

検査の「感度」については今でもかなりしつこくブログ記事にしてきました。週刊文春では「危うくがんを見逃しそうになった女性も」との見出しで、実際は乳がんがあったにもかかわらず線虫によるがん検査で陰性判定されてしまった女性の件が記事になっています。

がんの検査が陽性であるはずなのに陰性と判定されてしまった場合、事前に知っておきたい臨床検査用語として「特異度」があります。

この特異度もみなさんがイメージする特異度とは違っていることに注意が必要です。特異度はあるがんに対して特異的に反応する検査との意味では無く、臨床検査における特異度とは「本当は病気じゃ無い人に対して病気では無い」と判定する確率です。

この特異度も落とし穴というか曲者なのです。病気では無い人に対して病気で無いと判定する確率が特異度なのですから、全員に対して陰性判定をすれば特異度は100%になってしまうのです。

そんなの納得できないよ〜、と言っても定義は定義ですから、定義を定めない限り話を進めることはできません。

メディアが感度や特異度に関して知識が無いためにヘンテコな報道をしたんじゃないの的にこのようなブログ記事も書きました。

がん早期発見の新技術「尿一滴でがんを線虫が検知」で考えたこと⋯利益と不利益。

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がんの早期発見は常に過剰診断・過剰治療問題を避けることができるわけではありません。腫瘍マーカーや線虫を使った尿検査で「がん陽性」と判断されても、実際は発見できない「偽陽性」をどのようにして排除していくかという大問題が腫瘍マーカー、がん早期発見診断には課せられています。

これを書いた時点では今回の文春砲のような内部告発的な情報は出ていなかったために、感度・特異度に関する理解不足が問題だと思い込んでいた当時の私の置かれた状況がご理解いただけると思います。

全身網羅的にがんを調べても、臓器が特定できなければ意味ないじゃん。

線虫がん検査のサイトで不思議な文言を見つけました。

線虫を使ったがん早期発見方法で「全身網羅的」にがんのリスク判定ができる、と書かれています。「全身網羅的」の右上に※2と書かれており、線虫が反応することがわかっている2019年時点のがんの種類が書かれています。

例えば100人のお年寄りに集まってもらい、その100人に対して頭のてっぺんから爪先まで標準医療で使用されている検査機器・検査方法をフルに使用してがんが何処かにないかを徹底的に調べてみます。結果的に臨床的に意味のないがんまで含めると半数近くのお年寄りに結果的に何らかのがんが見つかる可能性が出てきます。

その理由は簡単です、がんは突然がん細胞が現れ、突然増殖を開始するのではなく時間の経過とともに現れ増殖をしてくのですから。

一定の年齢以上の方に対して「あなたの身体にがん細胞が見えます」なんて感じの予言というか占いをしてもかなりの確率で当たるのです。

がんの早期発見で問題となるのは、どの臓器にがんが発生しているのかであり、そのがんによって生命が脅かされる危険性があるかの見分けが重要となってきます。

どの臓器にがんが存在しているかを具体的に調べられない検査方法は臨床的に意味をなさないのは、そのような理由があるからであることは知っておいて損はありません。

広津代表は陽性的中率・陰性的中率を明確に開示するべきです

文春砲の記事中で広津代表はしきりと臨床研究のデータでは感度86%が出た!!と発言しています。さらに先日は早期発見が難しい膵臓がんでさえも線虫が見分けるとの報道があり、にわか信じ難いことであると、私はぶっ飛びました。

桑満おさむのtweet

多分、根拠は「Scent test using Caenorhabditis elegans to screen for early-stage pancreatic cancer」(https://www.oncotarget.com/article/28035/text/)なんだと予想されるのですが、この検査方法の判定も文春砲が伝えるような雑なものであったら線虫を使ったがん検査はポンコツ検査認定されてしまいます。

HIROTSUバイオサイエンスおよび広津崇亮代表が文春砲が誤報であり、自分たちの研究がまっとうかつ臨床的な意義があるものだと確信しているのであれば、第三者によって線虫がん検査の陽性的中率が既存の検査同等あるいは上回るとの検証を行なって貰えばいいだけなんだけどね。

1:陽性的中率 = 本当にその病気である人 ÷ 検査で陽性と判定された人の割合 ※2:陰性的中率 = 本当はその病気ではない人 ÷ 検査で陰性と判定された人の割合

私はまだ見ていないのですが、今回の線虫によるがん検査に関しては東京大学病院放射線科のの上松正和先生が「線虫がん検査の致命的な疑惑:詐欺医療にやられない③」(https://www.youtube.com/watch?v=d7SAwBn2FVQ)で取り上げているので、そちらを視聴して加筆することもあることをご了解くださいませ。

文春の内部告発的な記事の特にブラインドにて検査をしていない問題等に関して、私は真偽を確認する手段も無いためにコメントをする立場ではありません。ただ、この記事にあることが真実ならば広津先生の基礎的研究段階のご苦労を知っているものとしては企業としてローンチしたためにこのようなことになってしまったのなら、非常に残念なことです。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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