頻尿治療薬バップフォー、市販薬だとバップフォーレディ。なぜ「レディ」が名称に付いたのか、その謎を解きます。
本記事の内容
処方薬バップフォーにレディが付いて市販薬になった理由
1990年代から頻尿治療薬として処方されてきた大鵬製薬のバップフォー(BUP-4)が「バップフォーレディ」との名称で2021年11月から市販薬として販売が開始されました。
処方薬には付随していない「レディ」がなぜ市販薬にはつけられているのでしょうか?「レディ」ということは「LADY」なんでしょうからイメージとしては男性向けでは無い頻尿改善薬なんでしょうね。
処方薬バップフォーの場合は決して女性向けの薬では無いのに、市販薬は女性向けであることをイメージ喚起させている理由を説明してみます。
尿意切迫感や頻尿を伴う過活動膀胱の症状は女性特有では無いのになぜ「レディ」が???
近年私たち泌尿器科医を受診する患者さんで急激に増加しているのが「過活動膀胱」と呼ばれる尿意切迫感を伴う頻尿を主症状とする疾患です。
泌尿器科的に過活動膀胱を厳密に定義した場合、必ずしも頻尿だけでは過活動膀胱と確定診断するのは少々というかかなり問題があるのですが、一般的には「頻尿=過活動膀胱」と受け止められているので、そのまま乱暴に話を進めます。
大鵬製薬が今回市販を開始したバップフォーレディは女性向けの要指導医薬品で適応症は「尿意切迫感・尿意切迫を伴う頻尿・尿もれ」です(https://www.taiho.co.jp/chc/product/bup4lady/bup4lady/)。
過活動膀胱という病態が一般的になる以前は上記のような症状に対しては神経性頻尿という病名をつけてバップフォーを処方していた泌尿器科医が少なくはなかったと思われます。心の中では「誰だって尿が近くなることくらいあるじゃん」と思いつつ・・・。
上記のようは症状がある場合に私たち泌尿器科医は男性の場合は前立腺肥大症等の原疾患が存在しないのか?女性の場合は加齢による骨盤底筋群の衰えがないのか?男女ともに飲水量に問題は無いのか等々詳細な問診をしつつバップフォーなどの抗コリン薬を処方していたものです。
女性が頻尿を主訴として泌尿器科医を受診した場合、一番多くありふれた病気として膀胱炎があります。実は膀胱炎の患者さんに対してバップフォーを処方することによって「尿閉」と呼ばれる尿が全く出せなくなってしまう副作用を引き起こしてしまうことが以前から問題となっていたのです。
膀胱炎でバップフォーレディを服用して、尿閉が急増のリスクもあるかも
薬剤性排尿障害のうち尿の排出障害を引き起こす薬として次のようなものが知られています。
過活動膀胱の治療薬として処方される抗コリン作用を持つ薬の多くが排尿困難を起こすことがこの一覧表では指摘されています。
男性は尿閉になりやすい、だからバップフォーレディ
頻尿という症状だけで抗コリン作用がある過活動膀胱治療薬を処方されて服用してしまうと、それこそ膀胱におしっこが溜まっているのに排尿できない、一滴も排尿できない地獄の苦しみである「尿閉」を引き起こしてしまうことがあり得ます。
特に男性特有の臓器である前立腺が肥大した前立腺肥大がある場合にカジュアルに抗コリン作用がある過活動膀胱治療薬を処方して尿閉になってしまった患者さんを診たことがない泌尿器科医は皆無だと思われます。
男性の場合は女性と比較して尿閉になりやすい、だから市販薬のバップフォーは「バップフォーレディ」との名称になったのですね。
バップフォーレディの用法・用量は
成人女性(15歳以上70歳未満)、1回1錠を1日1回食後に服用してください。
https://www.taiho.co.jp/chc/product/bup4lady/bup4lady/
と書かれていますから。でもさあ、レディと書いてあるからといって素直に「これは女性向けだから」と判断しないで強引に服用してしまうオッサン・オジイチャンがこの年末・年始にかけて大量に出てくることを前もって予言というか予測しておきますね。
なぜならED治療薬を強引に服用してしまった女性だって過去にはいたのですから・・・梅宮アンナ、バイアグラを飲んで死を意識する「心臓が…」
※「LADY」って淑女や偉い人のことを意味する英語だよね?淑女じゃなくても、偉い人じゃなくてもバップフォーレディの適応はどうなんだろう、なんてことも一瞬考えたけどこれ以上女性ファンを失いたくないし、問題案件となりそうなんでやめておきますね。
バップフォーレディは薬剤師さんのいるドラッグストアで購入しましょう!
大鵬製薬は小林製薬の真似っこなのか、以前から市販されていた漢方薬のネーミングをうまく変えることによって泌尿器科の現場に大混乱を招いた既往があります。
漢方薬の八味地黄丸を「ハルンケア」(「ハルン」はドイツ語でおっしっこの意味)との製品名で販売することによって、「先生、ハルンケアはどうなんですかね?」「ハルンケアを併用してもいいですか?」なんて質問だけではなく、他院で処方されている薬として「ハルンケア」と申告された患者さんも私は経験しています。その患者さんは多分、処方薬である「ハルナール」のことをテレビCMで刷り込まれた名称である「ハルンケア」と混同していたのでしょう。
私は年末年始に多い尿閉のトラブル、意外な市販薬でも起こりうることは毎年恒例として注意喚起をしています。
2021年から2022年の年末・年始はバップフォーレディを服薬して尿閉になる患者さんが出現しないことを祈ります。