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カルピスの「乳酸菌がストレスを緩和する」広告に大ショック。

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脳と腸がお互いに密接に影響を及ぼしあうことを“脳腸相関(brain-gut interaction)”または“脳腸軸(brain-gut axis)”と腸内細菌学会(旧日本ビフィズス菌センター)は定義しています。自律神経系や液性因子(ホルモンやサイトカインなど)を介して脳と腸がお互いに関連しているというのです。

お腹が痛くなれば気分が悪くなり、逆に精神的に落ち込むと胃腸の調子が悪くなるといった相関関係にあると。

もっともらしい話ですが、果たして本当なのでしょうか?

脳と腸の深い関係、脳腸相関ってなんだろう?

以前から、腸は第二の脳、なんてことが言われていました。私はいきなり「腸は考えるのです」とか言われちゃうと、「またトンデモさんの登場かよ」と受け止めていました。

ところが大手乳酸菌メーカーが免疫と腸の関連性の研究を激しく行って、免疫系に対して腸内細菌叢がなんらかの働き、あるいは影響があるように見える研究結果に基づいて、ドンドコ製品化しています。

まあ、早まるなよ的に余計なアドバイスをしてしまう自分がいるのですが、かなりの量の研究論文が「脳と腸」の深い関係を検証しているのです。乳酸菌メーカーとしては、一刻も早く研究結果を商品としたいと考えるのは当然ですが、子供の時から愛しんでいたカルピスまでがこんな広告を〜❗❗

カルピスの乳酸菌サプリの広告

「不安」という文字、スマホのレンズが曇っていたわけじゃないです、ぼんやりした「不安」を表現するためか、わざとボケた文字になっているのです。

カルピスといえば、子供の時にちょっと贅沢な飲み物。「今日は頑張ったからちょっと濃い目にしちゃおう」なんて感じで楽しんだ世代もいるはず(カルピスウォーターなんて、手の混んだ商品はその頃はなかったの。カルピスの原液をセルフで水、それも水道水で薄めてたんだよ)。

カルピスといえば、キャッチフレーズは「初恋の味」、私としてはカルピスが脳腸相関なんて怪しげになものに手を出したのは、初恋の人が擦れっ枯らしになってマルチにバックリはまって、「今度ちょっと楽しくて勉強になる集まりがあるの。ちょっと顔だしてくれない?」と突然メールしてきたような気持ちになってしまいました。

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カルピス ストレスを緩和する機能性表示食品乳酸菌サプリ「メンタルサポート ココカラケア」(https://bit.ly/3ckyxmR)

「脳腸相関」は脳と腸の深い関係を表す言葉です

「脳腸相関」はがっちりとした医学用語ではありません。だからといってインチキ系トンデモさんが使用する「波動」的なニセ科学ともいい切れない点が、脳と腸の関係を表す「脳腸相関」です。

「脳腸相関」で検索すると、乳酸菌メーカーのサイトが上位表示されます。脳腸相関は英語だと「brain-gut interactions」であるはずなので、この言葉でpubmedで検索してみるとそれなりの研究論文がぞろぞろと⋯。

例えば「The gut-brain axis: interactions between enteric microbiota, central and enteric nervous systems」(PMID: 25830558)。

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脳と腸内細菌叢の関連性について書かれたもの、中枢神経系と腸の神経系で構成されるのが脳腸相関である、と定義(?)しつつ強引に、脳の認知能力や感情は腸の機能と結びついています、と話を進めております。

心配事、悩み事がある時にお腹の調子が悪くなる、これは多くの人が経験していると思います。私は子供のときから胃腸が悪く、ちょっと嫌なことがあったり心配なことがあると、トイレを行ったり来たりすることをしばしば経験しています(ひどい時は嘔吐しちゃっていた)。

でも、その当時にお腹の調子が悪いからカルピスでも飲もう、って発想はありませんでした。カルピスは美味しから飲む、それ以外の理由は無かったし、健康のためにカルピスを飲むような意識高い系の友達はいませんでした。

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前掲論文より。カルピスを飲むたびに、こんな面倒くさいこと考える子供もいないだろうけど。

脳から腸へ司令がでて、その司令を受けた腸が状況報告を脳に伝達する、これは当然のシステムだと思います。しかし、「脳腸相関」的には腸が脳へ司令を出して脳の認知能力や感情を左右することになるらしいです。

調べれば調べるほど、「脳腸相関」はもっともらしい結論になってしまった

脳と腸が深い関係で結びついていることは、なんとなーくイメージはできました。脳腸相関を強く支持する研究論文って探せばドンドコ出てきちゃいまいした。

例えば、「Brain Structure and Response to Emotional Stimuli as Related to Gut Microbial Profiles in Healthy Women」(PMID: 28661940 ) 、日本語に訳すと「女性の腸内細菌と感情面の反応」って感じになります。

この論文は研究対象がマウスではなくて、実際にヒトを対象としている点が興味深いと思われます。内容的には

対象は健康な情勢40人。

腸内細菌を分析した。

様々な画像を見てもらい、その時の感情の変化をMRIを使って測定。

33人はバクテロイデス属が多く、7人はプレボテラ属が多かった。

バクテロイデス属が多いグループはネガティブな画像を見てもネガティブな気持ちにならなかった。

となっています。

腸内細菌の種類によって、感情に差が出るぞ、どうだ的な研究ですね。

カルピスのぼやけた「不安」という文字が気になって、気になって

朝っぱらからカルピスが出している乳酸菌サプリ「メンタルサポート ココカラケア」の折込広告でショックを受け、さらにぼやけた文字で「不安」と書いちゃうセンスに感動してしまった私。

カルピスの乳酸菌サプリ「メンタルサポート ココカラケア」の主成分を調べてみると「CP2305ガセリ菌」でした。これは正式には「L.gasseri CP2305」と書くはずなので、このキーワードで再度pubmedで検索してみました。

かなり過激な「L.gasseri CP2305」からみの研究論文を見つけてしまって、「カルピス、そこまでやるかあ?」と擦れっ枯らしになって、インチキ臭い自己啓発系セミナービジネスに手を染めてしまった初恋の人がかなりヤバい状態になってしまっているようなショックを受けてしまいました。

見つけなければよかったと後悔した論文は「Para-psychobiotic Lactobacillus gasseri CP2305 ameliorates stress-related symptoms and sleep quality.」(PMID: 28948675)です。

この研究のあらましは

人体解剖を行っている医学生32人が対象。

ご遺体を解剖させていただいているこれらの医学生にCP2305ガセリ菌を摂取するグループとプラセボを摂取するグループに分けた。

対象となった医学生のストレスと睡眠時間を観察した。

CP2305ガセリ菌を毎日摂取したグループが良い睡眠が得られた。

女性より男性の方が睡眠の質と便通に関してはCP2305ガセリ菌が有効であった。

とのことになっています。

でもさあ、CP2305ガセリ菌以外にも食事などに含まれる様々な微生物が腸内に取り込まれているはずだし、そもそも睡眠の質はアンケート調査だよね。

わたしとしては、「カルピスは初恋の味」とインプリンティングされている男性の方がカルピス系の味に敏感で、バイアスがかかっている可能性もあるんじゃないの?との素朴な疑問が湧き出てしまうのです。

おまけ:「ガゼリ菌」とGoogleの検索窓にいれると、こんな予測変換が出てきます。

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ガゼリ菌と新型コロナ感染症、うーむ、このキーワードで検索する人が多いとなると、さらに初恋の味カルピスの今後の方向性がかなり心配になってしまいました。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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