強い子のミロ、貧血の大人が殺到して品切れ状態問題を考えてみた。

「強い子のミロ」のキャッチフレーズでおなじみの麦芽飲料のミロが品薄状態とのこと。

まあ、強い子は飲まないで弱い子ほど飲んだほうが良いような気もするミロですが、なんと大人が子供の飲み物を争奪しているというあさましい状況が生まれています。ミロが急激に大人に愛飲されだした原因はいくつかのメディアを覗いてみたところ貧血改善目的なんだってさ。

強い子には必要なくて、弱い子に必要なミロを大人が買い占め問題

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メルカリより引用、さすがメルカリ、かなり高額で取引されていますね。

SNSで

貧血の皆さまー。ミロ飲んでみてくださいー! 鉄分が平均の1/7しかないと指摘された私でも、ミロ飲んだら平均値になりましたー!

https://news.yahoo.co.jp/articles/aed019c5635dceef7dcf77b596ff105c5708cd59?page=1

と本年7月に誰かがツイートしたのがキッカケとのこと。

鉄分が1/7って、鉄欠乏性貧血がミロを飲んだことによって平均値(これは多分基準値だろうな)になったとのツイートに触発されて大人のミロ買いが爆発的に生じてしまったのです。でもさあ、男性の場合は全身の鉄の量は約3.5g、女性で約2.5gとされています(MSDマニュアル「鉄欠乏性貧血」より)。このミロで鉄分が平均値になったと言っている女性の全身の鉄の量は0.36gってことなの?

不足している鉄分は計算することができます

鉄欠乏性貧血の場合、どれだけの量の鉄を投与すれば貧血が改善して基準値になるかを求める計算式があります。

$$総鉄必要量 (mg) =\bigl[ 2.2 (16-Hb) +10\bigr] \times体重 (kg) $$

ここで出てきた「Hb」はHemoglobin(ヘモグロビン)の略で赤血球に含まれる鉄とたんぱく質がくっついたもので、ヘモグロビンが酸素とくっつくことによって全身に酸素を運んでいます。このヘモグロビンが基準値以下だと「貧血」の疑いと診断されるのが普通です。

ミロで貧血が治っちゃった方は血清中の鉄の量が1/7とどこかの医療機関で診断されたんでしょうね、多分。でもさあ、血清鉄の量が少なくても不飽和鉄結合能 (UIBC) が増加している時にはじめて「鉄欠乏性貧血」と診断されるのが普通なんじゃないのかなあ⋯。

ミロで鉄分が平均値になった人は本当に鉄欠乏性貧血だったの?

全身の鉄の量が平均値の1/7になっていたとしたら、多くの場合は死に直結する大問題だと考えられます。また、Hbが基準値の1/7であったとしたら、どこかから大量出血をしている可能性が高く、ツイートなんてしていられないはずです。

となると、ミロで鉄分が補給できたとツイートした人(たぶん、女性)が言うところの「鉄」は血清鉄にほかならない、と予想できますよね。

検査結果の基準値は検査施設によって若干の違いはあるのですが、血清鉄は一般的には男性は50~200µg/dL、女性は40~180µg/dL位の範囲であり、個人差が大きいと考えられています。

検査結果を大げさに受け止めて血清鉄の基準値の最大量である180µg/dLの1/7だとしたら⋯ミロで貧血が治った人のもともとの血清鉄は25.7µg/dLとなり、かなり危なっかしい状態です。

先程述べたようにヘモグロビンの構成成分である鉄が不足しただけで鉄欠乏性貧血との確定診断は通常はしないはずです。鉄欠乏性貧血であることを診断するためには総鉄結合能と不飽和鉄結合能も検査する必要があるのです。

さらに可能であればフェリチンの検査項目に入れたほうがいいですよね。

そもそもミロで鉄欠乏性貧血が改善するか?

ミロのウェブサイトによれば。ミロは1杯分(15g) に含まれる鉄は3.2mg、牛乳150mlを加えることでミロ1杯で一日に摂取する鉄の目安の44%が摂れる、ってことのようです。

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「ネスレ ミロ」https://nestle.jp/brand/milo/nutrition/spec_original.html

食事摂取基準 (2020年)によれば成人女性が必要としている鉄分は6.0㎎〜6.5㎎程度。健康な女性の場合はミロを一日2杯飲めば十分鉄分が摂取できます。

さて、ミロで鉄分が平均値(しつこいけど、基準値だろうなあ)になった人のもともとの検査値が血清鉄25.7µg/dLだったと仮定しましょう(基準値上限の1/7) 。このツイートした人が女性だとすると、血液量は体重1kgあたり70ml程度。ミロ愛飲女性の体重を40kgと仮定したら全身の血液量は2.8L、つまり28dLになるはずです。

28dL中に含まれる鉄は25.7µg×28dL=719.6µg/dLです。女性の基準値上限(180µg/dL)の結果を満たすのに必要な鉄は5040µg(体重40kgの場合)ですから⋯

$$5040µg-719.6µg=約4320µg$$

計算すると4320µg不足ということになり、これを㎎換算すると5㎎必要ってこと。だったらミロ2杯で鉄欠乏性貧血が治っちゃうじゃん❗という計算間違いしちゃったかな的不思議な結論になってしまうのです。

鉄の代謝はそうそう簡単じゃないよ

通常、人体の鉄分はヘモグロビンや貯蔵鉄として身体中に分布しています。例えば筋肉や皮膚などに含まれる組織鉄、血液中に含まれるヘモグロビンの成分となるのが機能鉄です。通常、一日の食事に含まれる鉄は20㎎くらいですが、それがまるまる体内に吸収されるわけではありません。

女性の場合は月経によって鉄が体外に排出されるために、鉄欠乏性貧血になりやすいことに間違いはないとしても、もしもかなり貧血が進んでいて、Hbが8g/dLだとしたら、前掲の総鉄必要量の計算式を用いて血液中に直接鉄を注射する場合の必要量を計算してみます。

$$総鉄必要量 (mg) =\bigl[ 2.2 (16-Hb) +10\bigr] \times体重 (kg) $$

体重40kgとHbが8g/dLで計算すると

$$\bigl[ 2.2 (16-8) +10\bigr] \times40kg=1948.8mg$$

つまり約2gの鉄が必要です。

今度はミロ800杯飲む必要がでてきちゃうんですけど⋯まあ、ミロを注射はしないけどね。

結論:血液中の鉄の量だけで貧血と診断することは間違いです

私がめんどくさい計算をしてきたのは、血液中正確には血清中の鉄の量だけで、鉄欠乏性貧血と診断することは間違いであることをお伝えしたいからなんです。

例えば鉄剤を静脈注射するときでさえ、

一日あたり 40 ~ 120 mg の鉄剤を投与し,総鉄必要量に達したらそれ以上の鉄を静注しない.また,静脈用鉄剤によって血清鉄が上昇している際には,消化管からの鉄吸収はブロックされほとんど吸収されない.

http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse361.pdf

と医学の教科書には書かれています。

繰り返します、鉄欠乏性貧血の診断をするためには治療前に鉄欠乏の状態に陥った原因を見つけて、総鉄結合能・不飽和鉄結合能・血清フェリチンなどの検査が必要です。

鉄欠乏性貧血の原因として胃や十二指腸の潰瘍や婦人科疾患だけでなく、がんも考えられます。くれぐれも自己診断および自己判断による治療はやめたほうが良いです。

粉ミルク「はぐくみ」に含まれる鉄分は6.0mg、ミロよりたっぷり鉄が入っているんだけどなあ⋯貧血と自己診断した人が粉ミルクに殺到すると今度は強い子だけじゃなくて赤ちゃんが困るか。

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大人のための粉ミルクもありますので、強い子のミロや赤ちゃんの粉ミルクを買い占めないようにお願いできると幸いに存じます。

おまけ:この結果で貧血と診断しているオーソモレキュラー界隈の医師、大丈夫かな?

某オーソモレキュラー療法(まちがいなくトンデモ系ニセ医学)を行っている自費クリニックの医師と思われる人のインスタが私のところに回ってきました。

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フェリチンの基準値は女性 5-157 ng/ml 、男性 20-280 ng/mlが一般的。Hbの基準値は女性11.4-14.6g/dL 、男性13.0-16.6gなので、なぜ貧血と診断しているのか不思議でなりません。このインスタ、医学生の間でなんじゃこりゃ的に話題になっていました。

オーソモレキュラーにご興味のある方はこれもどーぞ。

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執筆した医師

桑満おさむ医師

このブログ記事の筆者:桑満おさむ
Osamu Kuwamitsu, M.D.

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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