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GLS1の働きを阻害して、老化を防いで健康で長生きしましょう❗を鵜呑みしては危険。

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日本人研究者によって老化を防ぎ病気を予防する、GLS1を阻害する物質が発見されました。

画期的な発見であり、世界中が注目すると思われる「GLS1阻害物質」、でもすぐに人間に効果があるかは現時点では不明であることをお伝えします。

老化を防ぐ物質を日本人研究者が特定しました

興味深い論文を見つけました。サイエンス(Science)という非常に権威のある科学誌に日本人の研究者によるこのようなタイトルの論文です。

「Senolysis by glutaminolysis inhibition ameliorates various age-associated disorders」(https://science.sciencemag.org/content/371/6526/265

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ざっくり意訳すれば、「グルタミンの代謝を阻害すれば老化に伴う病気の原因を取り除ける❗」ですね(ちょっと意訳しすぎかな)。

「Senolysis」は老化した細胞を除去すること。「glutaminolysis」はグルタミン(アミノ酸の一種で体内で作られることができるので、「非必須アミノ酸」です)が分解されることを意味します。「ameliorates」は改善することですから、私の超意訳も研究者が伝えたいことと、それほど外れてはいないはずです。

論文の場合、執筆者が言いたいことは「Abstract」にギュッと濃縮されています。アブストラクトをこれまた超意訳すると「GLS1は老化細胞を取り除くことと関連しているので、GLS1阻害の働きを邪魔すればひょっとして老化を防げて、老化にともなう病気を改善できるかもしれない⋯マウスの実験ではね❗」ってことになります。

以前、こんな記事を書いたので老化に関する論文はなるべく目を通すようにしています。

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怪しげなお医者さんやサプリ業界が「GLS1を阻害して老化を防ごう❗」的な治療や健康食品が世間に出回るまえに、余計なお世話でしょうけど、取り敢えず出る杭を打っておきます。

そもそもGLS1ってなんじゃ?

ここ数年、GLS1に関連する医学論文が多数出ています。GLSとは「glutaminase」の略であり、その働きはグルタミンからグルタミン酸を作り出す物質で、前掲の論文にある「inhibition 」は阻害する(邪魔することね)ですから、グルタミナーゼの1つである「GLS1を阻害することによって老化を防げるんじゃないの、マウスでは」ってことです。

となると、グルタミン酸が老化の原因であり、グルタミン酸の人体内での活動を押さえ込めば老化を防いで病気も防げる、と早とちりする人が出てくる可能性は否定できません(すでに出ているかも)。

先程、論文の筆者達が言いたいことはアブストラクトに凝縮されれいることをお伝えしましたよね、この論文の筆者も重要なこととして

Glutaminase targeting also ameliorated aging-related organ dysfunction and obesity-related disorders in mouse models, suggesting the potential therapeutic value of this approach.

と述べています。mouse models、マウスを使った実験での話である点に注意が必要です。

グルタミンといえば味の素、じゃあ味の素は老化の大敵?

食品添加物を必要以上に怖がる人達がいます。同じ様に化学物質を怖がる人々もいます。私は「添加物怖い怖いさん」とか「化学物質怖い怖いさん」と呼んでいたり、書いたりしてきました。

この方たちの多くが、化学調味料「味の素」を目の敵にしているために、今回Scienceに掲載された論文は心強いエビデンスとして用いられる可能性があり、ちょっと危なっかしいです。

なかにはグルタミン酸ソーダが奇形児(この言葉はあまり使わないで「形態異常」を使うように日本医学会は推奨しています)が増えるなんて、トンデモというかニセ医学というか疑似科学を披露している一派がいて腹立たしいです。

「日本の奇形児出産頻度が増えている」は悪質なニセ医学の典型的手法!母親に恐怖を与える❗

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奇形児が増えているのは○○のせいともっともらしくデマを拡散する人たちがいます。たしかに年々先天異常出産の頻度は増えていますが、それは、医療が進歩して心臓血管系の形状異常を事前に多数発見できるようになったためです。画像診断技術の発展により1999年以降は先天異常と診断される出産頻度が増えたのです。

ちなみに味の素をかばうわけではないけど、今の味の素は発酵法によって製造されています。

添加物や化学物質を目の敵にしている人達って、発酵食品は大好きだったりしますので、彼ら彼女らのロジックの不思議さにかえすがえすも翻弄されてしまう私です。

グルタミン酸はもともと人間の体内に存在しているために、非必須アミノ酸に分類されています。味の素の主原料であるグルタミン酸は体内のグルタミン酸と同じ様に体内で自然と代謝されます。

グルタミンやグルタミン酸を体内からきれいサッパリ除去すれば、不老不死は無理でも、老化を防ぎ、病気にならないような気がしちゃうかもしれません。でもねえ、グルタミンやグルタミン酸はそれなりに重要な働きをしているんですぜ。

おまけ:昔、味の素を食べると頭が良くなるなんて話が出回ったことがあります。

味の素を食べると頭が良くなる、って話が昔ありましたよね。

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味の素は、昔から頭を良くする、悪くなる説が交互にでてくるという歴史があります。最近、味の素で頭が良くなる説を唱えている人たちが何を根拠にしているか調べてみました。池田菊苗氏が1907年に発見した旨味の本体である、グルタミン酸ソーダが味の素の主成分です。もちろん味の素の会社は否定している説です。陰謀論もデマですよ。

私の蔵書で味の素で頭が良くなる可能性に触れた一番古い文献はこれです。

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「頭脳 才能をひきだす処方箋」の著者林 髞 (はやし たかし)先生は慶応大学医学部の教授で、この本は昭和33年に出版されています。

そもそも老化を防いだら、こんなことになっちゃうのでは?

アミノ酸は人体のタンパク質を構成する重要な要素であり、20種類のアミノ酸が必要です。GLSは繰り返しになりますけど、グルタミンをグルタミン酸に変える酵素であり、これまたもともと体内に備わっています。

細胞が老化すること=悪、とは言い切れません。

例えば、がん細胞は正常な細胞内の遺伝子がなんらかの原因で損傷することによって発生すると考えられてます(まあ、世の中にはヘンテコな考え方をする人もいるけど、今は無視ね)。がん細胞の特徴はドンドコ増殖することですよね、がん細胞は気が付かないうちに皆さんの体内で今でも作られています。でも、がんとして発症しない大きな理由は、がん細胞が老化するからなのです。がん細胞は生きている間に必ず作られているけど、老化という自然に備わったシステムで排除されているんです。

今回の論文はたぶん後日に大々的にメディア、特に中高年以上が大好きな健康関連雑誌や週刊誌が取り上げると思います。また、ヘンテコなお医者さんがすぐに、GLS1の働きを止める効果のある薬とか治療法を独自の解釈で編みだすことも予想されます。

GLS1を阻害することによる老化防止効果は、あくまで試験管レベル、動物実験レベルであることをお忘れなく❗

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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