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トンデモ健康法の理論的背景は酵素にあった!〜酵素信仰はニセ医学のはじまり(1)

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さまざまなトンデモ健康本が出ています。実はトンデモ医学ってオリジナリティに乏しく、他のトンデモ本にインスパイアされたものも少なくありません。

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ライフワーク的にニセ医学をウォッチングしてきた私は最近になって、トンデモ医学の関係を紐解くキーワードは「酵素」であることに気が付きました。

体温上げて免疫力アップも根拠は酵素

以前から「体温上げて免疫力アップ」とか「身体をあたためて免疫力を!」的な表現が気になっていました。少なくとも科学的評価を基準とした研究レベルであっても、体温を上げれば免疫力(そもそも免疫力の定義さえ不明)がアップすることを明らかにした論文はいまだに見つかりません。

実はトンデモ医学で酵素がありがたがられる理由の一つが酵素がその働きを高める活性と関連していることに内山葉子医師の著作「毒だらけ 病気の9割はデトックスで防げる 」(評言社)を読んで気が付きました(この本もトンデモ)。

多くの酵素は活性が最大となる温度があります。また、活性が安定的に保持される温度があります。内山医師はとにかく体温を上げれば酵素の活性が高まると考えているようですが、酵素が安定的に活躍するためには最適のPHが必要であることはあまりきにしていないようです。

ここまででわかったこと:体温上げて免疫力アップは酵素神話と強い結びつきがあるようです。

酵素信仰と生食の強い関係

酵素はタンパク質で構成されているので、温度が上がればタンパク質を構成している分子の運動は大きくなるので、当然触媒としての役割である触媒反応速度は当然早くなります。しかし、一定以上の温度であるとタンパク質は変性しますので、酵素の働きを活性化するためには、加工しない食品・熱処理をしない食材の摂取を奨める内容に内山医師の書籍はなっています。

そもそも人類が火を扱うことによって暖を取れるようになること以上に、食材に熱を加えることによって効率よく消化吸収できるようになったことが人類の進化を促進し、現在の私達が居ることを酵素信奉者はあまり気にしていないようです。熱を加えることは食中毒等の予防になっていることも重要なんだけどね。

ここまででわかったこと:酵素信仰とローフード(raw food、生で食材を食べることをありがたがる)信仰は強い結びつきがあります。

腸内フローラ信仰を支えているのはやっぱり酵素

とにかく免疫力アップすることがお好きなニセ医学界隈でありがたがられるのが乳製品による腸内細菌叢(腸内フローラの方がイメージつかみやすいかな)を整えましょうムーブメント。腸内の細胞が免疫システムと強い関連があることは様々な研究でわかってきています。日本で有名な言い出しっぺは、農学博士の光岡知足氏だと私は判断しています。

1978年に岩波書店から出した「腸内細菌の話」が元ネタとなって、現在の腸内細菌神話に発展したと考えられ、途中で解剖学者である藤田恒夫氏が「腸は考える」を岩波新書として出版したことがブースト効果になっていると思われます。多くの腸内細菌神話信奉者の著作や雑誌記事、乳製品会社のウェブサイトでも光岡氏や藤田氏の名前が記載されていますので私の判断は大きな間違いではなさそうです。

この腸内フローラにおいても酵素は大きな役割を果たしています。

食物の消化吸収に酵素は大活躍していることは事実です。1833年にフランスの研究者が単独で分離した酵素が消化酵素であるジアスターゼ(diastase)であることも酵素と腸内フローラが結び付けられて語られる一因なんでしょうね。

アミラーゼは膵臓や唾液腺から分泌される酵素であり、分泌がたりないと胃もたれなどの原因となったり消化不良を起こすために薬として日本人には愛されています。でもこの口から摂取したアミラーゼはあくまで消化管内で食物を消化吸収する助けるだけであり、そのまま体外に排出されちゃいます。酵素神話の信仰者たちが生命を維持するために必要であると考えている酵素と消化酵素はかなり違った位置づけになるのではないでしょうか?

血液中や尿中にアミラーゼは存在していますが、ほとんどが膵臓と唾液腺由来のα-アミラーゼであり、サプリメント等として体内摂取したアミラーゼを検出した研究は見当たりません。

そもそも腸から吸収される分子量の限界は300〜600程度なので、分子量が60,000程度であるアミラーゼが体内に入り込むことはありえないのです。

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https://www.researchgate.net/figure/Some-of-the-enzymes-and-enzyme-like-proteins-used-for-immobilization-on-PGE-Source_fig1_338353875

様々な酵素のイラストです。酵素って予想以上に複雑な構造をしていて分子量が大きいのです。

腸内細菌と酵素の関係についてこのような記事がありました。

腸内細菌は、人間が生きるために必要な酵素を作り出しています。腸内環境がきれいであればあるほどいい酵素が作り出されます。

https://www.shinyakoso.com/column/gutflora01/

酵素はたしかに人間がいきていくためには必要です。しかし、酵素の役目は細胞内での触媒であるために増えたり減ったりはしません。腸内細菌が作り出す酵素は腸内細菌がいきていく上で必要な酵素の可能性がかなり高いはずであり、その酵素が人間に役立っているのは食物を消化吸収するためであると考えるのが普通です。酵素とアミノ酸、特に必須アミノ酸と混同している疑惑(笑)。

ここまででわかったこと:腸内フローラに過大な期待をする人たちと酵素も密接な関係があるのです。

酵素は単独では働かないよ

酵素を摂りましょう、酵素を含む食材を生で食べましょう、と酵素信仰の信者さんは訴えかけますが、体内に存在する酵素は数千種類あり、体内での化学反応を促進する役目を持っています。体内の分解や合成は連続的に引き起こっており、この化学反応によって代謝が維持されているのです。いくつかの酵素をたっぷり摂取しても体内の化学反応が望む方向に加速することはありえません。

ここまででわかったこと:特定の酵素を大量に摂取しても、代謝には影響はありません。酵素、酵素と言いながらサプリメントを摂取することは様々な意味で無駄です。

酵素神話はさらに多数のトンデモ医学を生み出しています。次は酵素栄養学というもっともらしいネーミングのニセ医学について述べる予定です。

参考文献

  1. PDBjの生体高分子学習ポータルサイト「αアミラーゼ」
  2. 「腸内細菌叢」モダンメディア 65巻4号2019
  3. 「Drug Absorption from Large Intestine : Physicochemical Factors Governing Drug Absorption」Biological and Pharmaceutical Bulletin 17 巻 (1994) 2 号
  4. イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版 丸善出版
  5. ストライヤー「生化学」第7版 東京化学同人

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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