最近なぜか注目されている鶴見クリニックの酵素栄養学の権威らしい鶴見隆史先生の著作「真実のガン治しの秘策」(中央アート出版)を読みました。
まっとうな医学からは見向きもされない酵素栄養学という異端の医学を信奉し実践する鶴見医師がなぜ奇異な治療に突っ走るのか、その一部がなんとなく理解できそうな気がしてきました。
本記事の内容
トンデモに嵌った鶴見隆史医師の純情かつ疑いの心を持たない素直な人物像が理解できるエピソード
この本の著作者である医師が代替療法に目覚めたのはおばあちゃんの知恵袋による個人の体験がもとであることが記載されています。小児喘息であった鶴見医師がおばあちゃんの手による千切りキャベツを食べることによってピタリと治まったとのこと(個人の体験ですよね)。また鶴見医師が浪人中に母親の友人が西洋の薬は怖いものであり漢方の煎じ薬は身体に良く副作用がないと言っているのを聞いて、その後医師免許を取得した鶴見医師は薬漬けの医療に嫌悪感を抱くようになったようです。
自分個人の体験、また知人の話を聞いて西洋医学を嫌悪するようになった医師となって純情かつ疑うことを知らない鶴見青年医師がキラキラ輝く目で夕日に向かって、「俺が日本の医療を変えてやる!!」と心に決めた状況が目に浮かび、どんより曇った疑い深い私は鶴見医師の情熱加減のあまり重きに泣きて三歩あゆまず状態です。
- 個人の体験がその後のお医者さん人生に大きな影響を及ぼした
- 鶴見医師の決意を固めたきっかけは知己のおばちゃんの一言
- 一度決めたら揺らぐこと無く突き進む性格
鶴見隆医師は素朴で純情なうえに一度決心したら揺らぐことのない信念をお持ちの方と見受けました。
日本ではがん患者さんは右肩上がり、でも米国では数十年間がん患者さんが減っている理由
鶴見医師は著作の初っ端で日本は人口は30年で1.2倍増えているのに、がんで亡くなる方の数は2.5倍になっていることについて疑似を呈しています。一方で米国では数十年間に渡ってがんで亡くなる方は右肩下がりであることを伝えています。
鶴見医師は一貫して抗がん剤使用を否定して酵素栄養学というトンデモ医学を信奉しつつ他のトンデモにも手を出して現在に至っていることは2021年9月に東大病院放射線科の医師が鶴見クリニックに潜入レポートしたことによって多くの人が知ることになりました。
日本でがんで亡くなる方が増えていたのは間違いのない事実であり、米国でがん死の数が減少していることも事実です。米国でがんで亡くなる方が減少している理由として考えられるのは徹底した禁煙対策とがん検診の積極的な推進と一般的には考えられています。
ちなみに米国における医薬品の売上のトップ10中5つが抗がん剤です。
鶴見医師が嫌悪する西洋医学の代表格である抗がん剤は確実に使用されていることも米国でのがんが原因となって死亡する患者さんの減少に貢献している可能性も十分に考えられるのでは無いでしょうか?
西洋医学を嫌悪しつつ西洋医学のお手本とも考えられる米国の医療を持ち上げながら、日本の医療状況に警告を鳴らしている矛盾に鶴見先生はお気づきになっていないのでしょうか、これは鶴見医師が非常に柔軟性に富んだ思考回路をお持ちであることの証明なんだと唸ってしまった私です。
食事が原因で病気になった、食事を直せば病気も治る?
鶴見医師は食事が原因で発症した病気は食事を改めれば治るという信念を持ちのようです。生活習慣病といわれる病気は食事も発症原因のひとつと考えることができます。一方でがんの場合、どのようなものを食べ続けているが原因で発症するかに関してはいまでも多くの医学者が研究を世界中で行っていても、明らかな発がん性物質以外を特定するには至っていません。
鶴見医師は日本の医師はがんは不可逆性のものであると信じ込んでる点を鋭くしてきしており、がんは可逆性のものであるとの信念をお持ちになって日々の診療を行っているようです。
可逆性と不可逆性という言葉は英語だとreversibleとirreversibleと表記して、可逆性はもとに戻る、不可逆性はもとに戻らないことを意味することは誰でも知っていますよね。鶴見医師はがんは可逆性であると主張することは、がん細胞が正しい細胞に戻ると考えていることが推測されます。
がん細胞を簡単にわかりやすく説明すると遺伝子のコピーミスが原因と考えられています。一度がん細胞となった細胞を正常な細胞に戻したとの研究レベルの報告はがん幹細胞を操作することによる可能性の研究は代表的なところでは慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御研究部門の佐谷秀行教授らの研究が知られています。
この記事のNature日本版が発行されたのは2014年、一方の鶴見医師の本が発行されたのは2008年。鶴見医師の先見の明には感心させらた私は再び三歩歩めなくなってしまいました。
食品添加物が年間8kg蓄積する?
お決まりの食品添加物は危険、危険、怖い、怖いと鶴見医師は述べています。
食べ物が原因でがんになる、故に今まで摂取した食べ物を改善すればがんも治ると考えている鶴見医師は食品添加物の危険性について、
鶴見医師は年間8kgも人体に食品添加物が蓄積していると信じ込んでいます。
10年間不適切な食生活を続けていると80kg食品添加物が人体に蓄積する計算になりますよね、トンデモさんの特徴である算数に弱いという法則を鶴見医師はしっかりと踏襲しているように伺えます。素朴で純情で意思の強い反面算数が苦手である鶴見先生、性格はいいけど緻密さに欠ける点を少々改善していただきたいなあ、なんてことをちょっぴり感じた私です。
抗がん剤は元々毒ガスをヒントに作られた、故に毒である
鶴見医師が書いているようにマスタードガスという毒ガスは細胞分裂を抑える働きがあることを利用してがん治療に抗がん剤として使われてきました。鶴見医師は抗がん剤は毒ガスがヒントとなって作られた薬であることを懸念しています。
がん治療にはプラチナを使用したゴージャスな抗がん剤があります。プラチナは高価な貴金属でありながら、がん細胞の自滅を促す振る舞いをするためにシスプラチン・カルボプラチン・オキサリプラチンとして多くのがん患者さんを救ってきています。
たぶん、鶴見医師はプラチナ由来のシスプラチンをがん治療に使用することは許してくれそうかもしれませんね、だって毒ガス由来じゃないのですから。
抗がん剤を使用している患者さんが8割死んだ
鶴見医師は抗がん剤は増がん剤であるとお考えのようです(p45)。その理由としての根拠は船瀬俊介氏の著作が一次ソースとなっています(笑)。
がんの患者さんの8割が死んだと鶴見医師は知人・友人からの伝聞を信じてしまう疑うことを知らない純真さを持ち合わせています。でも鶴見先生、中学の理科でならったはずの順列組み合わせやその後に学んであろう必要条件・十分条件などを忘れちゃったのかな?
抗がん剤を使用している100人の患者さんがいたとします。鶴見先生のお考えだとそのうち80人が死亡していることにお怒りなんですよね。
まずがん治療は抗がん剤以外に手術や放射線治療やホルモン治療がありますので、がん患者さん100人いたとしたら100人が抗がん剤治療を受けるとは限りません。
例えば私が専門としている泌尿器科領域で一番多いがんは前立腺がんであり病期1から病期3までで抗がん剤と呼ばれる薬を使用することはまずありません。病期4の遠隔転移があった場合でさえホルモン療法を中心に治療を行い放射線治療と一般的に抗がん剤と呼ばれる化学療法を行います。
前立腺がんの病期4の5年生存率は50%から60%であり、この中のぜんぶがぜんぶに抗がん剤治療がなされたとは限りません。かなりシビアな病期4であっても50%以上は生存しており、抗がん剤を使用した人はホルモン治療抵抗性の方であってその方に限ったとしても5年経過した後に80%が抗がん剤によって死亡したとは言えないのではないと考えられます。
トンデモというか波動医学というニセ医学の伝道者である船瀬俊介氏の一般書籍を信じてしまう鶴見医師、世の中は善人だけではないですし、医師でもないですし、まっとうな研究者でもないし、医学を学んだ形跡さえない船瀬俊介氏の言うことを少しは疑うような気持ちをお持ちになってもよいのではないかと、老婆心ながら心配してしまいます。
まだまだヘンテコな記述が続く251ページで構成される「真実のガンの治しの秘策」半分ほど読んでこれ以上読みすすめることは断念しそうです。でも鶴見医師のように強い意思をもって2011年に出た「がんが消えた!マイナス水素イオンの奇跡」および2013年に出た「断食でがんは治る」も読破したいと思います。