泌尿器科は男性ホルモンのプロフェッショナル。こんにちは、目黒区で泌尿器科医をしている桑満です。
さて、男性は女性より短命であるってことは皆さんもご存知でしょう。もはや常識となっていますが、でも、これってなぜなのでしょうか?
男性のホルモンの変化を考慮しながら男性短命説の原因を探り、解決方法を考えてみましょう。
本記事の内容
どの国であってもどの人種であっても男性が女性より短命である理由
2021年7月に厚生労働省が発表した簡易生命表によれば2020年の日本人男性の平均寿命は81.64歳、日本人女性は87.74歳です。2019年と比較して男性は平均寿命が0.22歳延びていますが、女性は0.30歳の延びです。
なぜ男性は女性より短命なのでしょうか?
戦争で戦死するのは男性がほとんどだから男性は女性より短命、との解釈もかつてはありました。平和であると考えられる日本の現状である男性が女性より短命であり、年々寿命が延びていても女性の延びしろの方が大きいことの説明を泌尿器科医的なアプローチで考えてみます。
2030年には平均寿命が90歳を超える国も出てくるのではないかと、BBCは報じています。上の図からもどの国であっても女性の方が男性より寿命は長いことがわかります。
【注意】なお、ジェンダー問題や性差別問題は今回の記事では考えないでお読みください。生物学的なオスとメスとして話を進めます。
男性ホルモンの変化が短命の原因!?
まずは男性が男性である所以である男性ホルモンの功罪を中心に考えてみます。
東京大学医学部付属病院老年病科の秋下雅弘教授は「テストステロンの値が低い男性ほど短命である」と述べています(時事メディカル2017年8月14日)。
男性の寿命とテストステロンの関係については海外でも「Low Serum Testosterone and Mortality in Older Men」(PMID: 17911176)などで指摘されており、多数の論文が男性が女性より短命である原因の一つとしてテストステロンの値の低下だととの考えを支持してしているのです。
テストステロンが低いとなぜ寿命が短くなるのか?
男性ホルモンの代表であるテストステロンは男性の精巣で作られるホルモンですが、女性も微量ながら副腎や卵巣で産生しています。
厚生労働省が発表した「令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の結果」によれば2019年の日本人の死因の1位ががん、2位が心血管、3位が老衰、4位が脳血管疾患、5位が肺炎です。
男性ホルモンが少なくなると血管が硬くなり、脈波伝播速度検査PWV (Pulse Wave Velocity)を行うと伝播速度がが早くなります(血管がしなやかだと遅くなる)。つまり血管のしなやかさが男性ホルモンの低下によってが失われることは「循環器領域における性差医療に関するガイドライン」でも指摘されている事実と考えて間違いありません。
厚生労働省死因の2位の心血管系疾患と4位の脳血管疾患は血管が硬くなる動脈硬化がリスク因子です。この二つの死因においては大きな男女差があるのです。男性の場合、常に女性より心疾患による死亡率が高いことに注目してください。
心血管系、つまり血管が問題となって男性は女性より亡くなることが多いですし、男性の方が女性より早死にもしていることがわかります。
柔軟性に富んだ血管を維持するためには男性ホルモンを高い値に維持することによって死亡リスクが軽減することが多いに期待できるのです。例えば私が専門としている泌尿器科のがんで一番多いのは前立腺がんです。前立腺がんは生存率が高いことでも知られていますが、前立腺がんの治療として男性ホルモンを抑制する治療方法があります。
男性ホルモンを抑制すると、がんでは死なないで循環器系の疾患で死亡する人が多くなるということを泌尿器科医は経験しています。
血管を柔らかく維持しつつ、男性ホルモンを高い値にする方法
男性ホルモンを十分に維持しながら血管を柔らかくすることで、男性の寿命は女性並みの長寿になれる可能性があります。
長久保病院・広島大学・山梨大学の泌尿器科が共同で研究した「Flow Mediated Dilation(FMD)を用いた血管内皮機能と下部尿路症状の関連およびタダラフィル投与の有効性の検討」(日本泌尿器科学会雑誌 2020 年 111 巻 1 号 p. 1-8)という非常に興味深い論文があります。
タダラフィルを服用すると血管内皮機能が改善するのです!
この論文は前立腺肥大症の薬であるタダラフィルが下部尿路障害(LUTS)の改善にどれだけ役立っているかを調べる目的で計画された研究なのですが、Flow Mediated Dilation(FMD)という検査機器を使用して同時に血管内皮機能も調べています。
このタダラフィルの副作用としてEDの改善があり、タダラフィルを服用することによって血管内皮は柔軟性を取り戻すし、EDも改善するというまさに男のQOLを高めながら長寿も目指せる夢の薬的な評価を私は個人的に下しています。
低下した男性ホルモンは補充すればいいのです。
男性ホルモン補充療法に期待できる効果
LOH症候群(加齢性腺機能低下症、late onset hypogonadism)と呼ばれる病気があります。別名は「男性更年期障害」。
加齢あるいは強烈なストレスによってテストステロンが減少している場合は心身両面でのトラブルが出てきてしまい、それがLOHと呼ばれる病気なのです。
血管の病気と男性ホルモンであるテストステロンは密接な関係があることがわかっています。その男性ホルモンが減少することがLOHのポイントであると多くの泌尿器科医は考えています。
さまざまな原因で男性ホルモンが低下あるいは減少していても、へった男性ホルモンを補充すればいいじゃん、との考え方もできます。そこで登場したのが男性ホルモン補充療法です。
例えばメタボリック症候群と男性ホルモンであるテストステロンの関係も強いものであり、テストステロンの補充療法を行うことにより、メタボリック症候群の因子が低下することもわかっています(日本men’s health医学会 2012年12月News Letter 「テストステロンとメタボリック因子の関係」宮川康)。
加齢による男性ホルモンの減少を食い止めることによって、男性の寿命も女性に近づくことが可能なのではないか、と考えられます。
なんか調子悪いなあ、と考えた男性だけではなく、一回テストステロンの値を調べてみようかな、でも良いので一度泌尿器科の門をたたいてみたらいかがでしょうか?
※注意1:テストステロンの測定は保険診療の対象にならない場合もあります。
注意2:テストステロンの検査は日内変動を考慮して午前中に行うことがほとんどです。
注意3:ホルモン補充療法は保険診療の対象にならない場合もあります。