検査拡大すれば感染者数だけでなく死亡者数も減らすことができる、との思い込みは危険。

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新型コロナ感染にともない、PCR検査という医学用語が一般的になりました。

日本の場合、海外諸国と比較して検査数が少なすぎるとの主張を目にします。PCR検査を徹底的に行うことが感染拡大を防ぎ、感染者を減少させ、死亡リスクを下げることになるとの意見も多く見受けられます。

果たして検査数と感染者数、検査数と死亡者数は強いつながりがあるのでしょうか?

PCR検査拡充を阻んでいる、だから日本の新型コロナ感染症対策は間違っているのか?

新型コロナの対応に関して、海外ではPCR検査が多く行われているのに、日本は政府の考えや医師の考えに服従して検査数が少なすぎる❗との声が相変わらず聞こえてきます。例えばこれ。

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著者の高木徹氏はプロフィールによれば、NHKの国際番組のプロデューサーですから、当然新型コロナの状況を世界的な見地からご存知だと思われます。

インタビューされている側の小林慶一郎氏は元経済官僚であり、現在はシンクタンク等に所属している経済方面の専門家のようです。

お二方ともに著名な方なんだと思います。

私は新型コロナ感染症禍の問題点として、人命と経済はトレードオフの関係にあり非常に悩ましい状況に世界中が追い込まれていると考えています。小林氏が文中で「経済と人命のトレードオフという考え方ではなく、経済そのものも人命に関わっていると考えないといけないと思っています。」との発言に強く同意して、この記事を読み進めました。

しかし、思わず電卓を取り出してしまった記事です。

小林氏は条件付きで市中の感染状況を把握するために、積極的に新型コロナ感染症の検査をすることを提言しています。一方で著者はPCR検査を全自動でおこなえる機械が登場しているのだから、大量の検査を行うことが正しい新型コロナ感染対策であるとの考えが見え隠れしてしまうからです。

私は新型コロナ感染への関心が高まった当初より、PCR検査を無闇矢鱈に行うリスクを危惧しています。

【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

日本は他国に比べて検査数が少なく「なぜ検査をしないのか」と疑問を投げかける医師もいれば闇雲に検査すべきでないとする医師とで意見が分かれています。未知のウイルスであることと治療薬がまだない・ワクチンも新型という何もかもが新しく、予想が難しい状況で、何が正解なのか?これは誰にもわからないのです。

果たしてが高木徹氏が考えるようにPCR検査を徹底的に行うことは、新型コロナ感染症禍を解決に導くのでしょうか?

※注意

私は感染症の専門家ではないし、疫学を専門とするものではありません。公表されているデータをもとにして、紙と鉛筆と電卓で計算しただけです。

週110万件のPCR検査能力を持つドイツは感染者や死亡者を抑えることに成功しているのか?

小林慶一郎氏の発言を受けて高木徹氏はドイツの例を挙げています。

ドイツ(人口8300万人)、ロベルト・コッホ研究所のローター・ヴィーラー所長は、「私たちの戦略では、感染の発生を早期に発見するために、早い段階から大量の検査能力を確保し、今では週に110万件(1日15万件強)のPCR検査能力を持つに至っている」と語っている。

とにかくPCR検査を大量に行うことが良いことである、との思い込みがあるように感じます。

ドイツの場合、感染者数は19万9588人、人口を8300万人として計算すると、国民全体の0.24%が新型コロナに感染していることになります。

PCR検査の処理能力が1日15万件であるドイツでは、死亡者数は少ないといえるのでしょうか?

Worldometers(https://www.worldometers.info/)を参考にすると、ドイツの新型コロナ感染による死亡者は9130人であり、人口100万人あたり109人が死亡している計算になります。日本は8人です。

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ドイツのPCR検査能力に触れた記述の後に、

これら欧米諸国では感染者数も日本より多いという事情もあるが

との断り書きがあったとしても、アメリカやイギリスやドイツなどのG7諸国と比較して日本のPCR数の少なさを批判あるいは比較する必要性が感じられません。

Worldometersはリアルタイムに世界中の様々なデータを伝えているサイトです。

数多くPCR検査を行うことによって、新型コロナの感染者を減らすことは可能なのか?

欧米と比較して感染者数も死亡者数も少ないと考えられている東アジアや太平洋に接する国の例を高木徹氏は持ち出しています。

日本より人口当たりの感染者数が少ないか同レベルの中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドといった東アジアや太平洋に面する国々も日本より多い検査を行い、感染者を抑えることに成功しているのが実情だ。

この考え方は正しいのでしょうか?

中国のデータについては信頼度が低いとも考えられますので、検証からは除外します。

韓国の感染者数は1万3338人、死亡者数は288人となっています。人口100万人あたりの感染者数は260人、死亡者数は6人で、PCR検査の総数は138万4890件です。

ここで検査数と実際に感染していた人の割合を考えてみます。

260人 ÷ 138万4890件 = 0.018%

PCRを10000件おこなって感染者は1.8人しか見つけられていません。

オーストラリアの場合は感染者数は9359人、死亡者数は106人です。人口100万人あたりの感染者数は367人、死亡者数は4人で、PCR検査の総数は296万5729件です。

韓国と同じ様に、検査数と感染者数の割合を計算してみます。

9359人 ÷ 296万5729件 = 0.32%

PCR検査を10000件おこなって感染者を32人見つけ出しています。

ニュージーランドの場合は感染者数は1542人、死亡者数は22人です。人口100万人あたりの感染者数は308人、死亡者数は4人で、PCR検査の総数は42万4719件。

検査数と感染者数の割合は以下です。

1542人 ÷ 42万4719件 = 0.36%

PCR検査を10000件行なって感染者を36人見つけ出しており、オーストラリアとほとんど同じ検出率と考えられます。

韓国とオーストラリア・ニュージーランドを同列に語ることは適切では無いのでは、と考えてしまいます。

PCR検査を多くすれば感染者数を抑え込める、感染者数と検査数が反比例しているとは到底考えられません。

高木徹氏は電卓片手に計算してみたのかね?なんてことを考えてしまいました。

積極的にPCR検査を行うことのリスクを考えてみる

次に述べることは医学を専門としていなくても、定義を明確にして計算すれば誰にでも理解できることです。

事前確率という言葉があります。検査はある患者さんへ診断を確定するものである場合と症状の無い人に対して何らかの病気なっているのかを調べる場合があります。

ある患者さんが何らかの病気になっている可能性のことを事前確率と呼びます。事前確率が低い病気に対して検査を行うことは次のようなリスクを考えに入れなくてはなりません。

新型コロナの検査はPCR検査が使われています(抗原検査も最近は使用しています)。PCR検査の問題点として、特異度が高く感度が低いことが挙げられています。

【新型コロナのPCR検査】感度だけじゃなく、特異度も考えないとダメ。

感度とは、陽性者を正しく陽性と判断することであり、新型コロナに対するPCR検査の感度は70%程度とされています。

特異度とは、陰性者を正しく陰性と判断することであり、新型コロナに対するPCR検査の特異度は99%以上と考えられています。

ドイツの感染者数は19万9588人、人口は8379万818人ですから、感染率を単純計算すると2.38%となります。この数字を事前確率として話を進めます。

新型コロナに感染している可能性、つまり事前確率を2.38%として10000人にPCR検査をした場合を計算してみます。

検査対象は10000人、実際に新型コロナ感染症に感染している人は238人、感度70%、特異度99%のPCR検査を行なった場合の結果です↓

実際に新型コロナ感染症に感染している人は238人、感度70%、特異度99%のPCR検査を行なった場合の結果

本当は感染していないのに97.6人が新型コロナに感染していると判定されます。一方で実際に感染しているのに71.4人は陰性判定されてしまいます。

ドイツでは 637万6054件のPCR検査が行われています。ざっくり計算すると6万2230人が偽陽性判定され、4万5524人が偽陰性判定されてしまっている可能性があるのです。

なお、ドイツで無症状の人に対してPCR検査を国全体で徹底的に施行したのかは不明です。

事前確率が低いと思われる日本で無症状者に対して積極的な検査を行うことが正しいとは言い切れなのではないでしょうか?

なぜなら、現時点で無症状感染者が第三者に感染させることはまだ明確にはなっていないのですから⋯・。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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