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【日本だけ?】夜間頻尿治療薬のミニリンメルトが成人女性には処方できない理由

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夜間頻尿、つまり夜におしっこをするために起きてしまうことが健康寿命に悪い影響を及ぼすことは、医学的になかば常識と考えられています。

夜間頻尿の治療薬として「ミニリンメルト®OD錠」というクスリがあります。2019年に認可された新しい治療薬です。ですが、日本国内では男性のみ処方OKなのです。子供なら女性でも処方可なのですが、なぜか成人の女性には処方できません。海外では女性に対しても処方されています。この理由を泌尿器科医としてわかりやすく解説してみますね。

海外では効果が認められているのに、日本では認められない不思議。

「Impact of nocturia on bone fracture and mortality in older individuals: a Japanese longitudinal cohort study」[1](PMID: 20727545)では高齢者の夜間頻尿と骨折の関係を検証して夜間頻尿のある高齢者は死亡リスクがたかまると述べています。

夜におしっこで起きてしまう夜間頻尿を、「年のせい」「年だからしかたない」と考えている人たちも少なくはありません。でも、いまでは様々な治療薬・改善薬によって夜間頻尿を減らすことが可能になっています。

夜間頻尿の原因は多数あります。私が最近お気に入りの薬は、「ミニリンメルト」と言う名前のデスモプレシン酢酸塩水和物が主成分の薬です。脳から尿量を調節するホルモンとしてバソプレシンが分泌されていて、バソプレシン受容体(V2受容体)に作用して尿量を減らす働きがあるのがミニリンメルトという名前のバソプレシンを元として開発されたデスモプレシンが主成分の飲み薬です。

夜におしっこに起きるなら、おしっこの量を減らせばいいじゃん❗という直球的な効果を期待した薬がミニリンメルトなのです。

夜間頻尿治療の最終兵器「ミニリンメルト」という薬の特徴はこれ❗

夜間頻尿治療の最終兵器「ミニリンメルト」という薬の特徴はこれ❗

以前からおねしょの薬として使われていたミニリンメルト。子供向けの薬だから、大人でもOKという単純な話ではないのが薬の難しいところです。2019年に保険適用となった、このミニリンメルトという薬が夜間頻尿の治療薬として適切なのか?気をつけなければいけない点について泌尿器科医の考えを述べさせてください。

しかし、このミニリンメルトはなぜか適応が男性に限られています。女性であっても夜間頻尿の症状は現れます。なんで、女性にミニリンメルトを処方することができないのでしょうか?これはさらに疑問が出てきます。実はミニリンメルトは海外では女性の夜間頻尿にも処方は可能です。

さらにさらに、ミニリンメルトは子供のおねしょ(夜尿症)の治療薬として日本であっても男女ともに処方可能です。

整理するとミニリンメルトの謎は以下のようになります。

ミニリンメルトは子供の場合、男女ともに処方可能なのになぜ大人の女性には処方できないのか?

国内で、なぜこのようなことになってしまったのかを解説しつつ、日本では処方薬として認められるまでには多大な時間をかけて安全性が確認され、さらに効果についても厳しい判定がなされていることをお伝えします。

明らかに効果があっても、統計学的に有意差がないと承認されない

バソプレシンが尿量に及ぼす影響に関して疑問を持つ医療関係者はいないものとして話を進めます。バソプレシンは尿量に影響を及ぼすだけではなくて、血圧を上げてしまう働きもあるために、血圧への影響がないように開発されたのが、デスモプレシンです。

海外では「NOCDURNA」の名称の処方薬として世界中で使用されています。

NOCDURNAに関する情報

https://www.nocdurna.com/discover-nocdurna/#about-nocdurna

ほらねっ、女性も対象になっていることがわかりますよね。しかし、なぜか日本国内だけは女性にミニリンメルトを処方することができません。その理由は統計学的に有意差が認められなかったからです。

そもそも国内で190人の女性に対してミニリンメルトを処方した時の安全性と有効性を検証する治験(第Ⅲ相試験)では夜間尿量の減少が認められています。

ミニリンメルト処方した時の安全性と有効性を検証する治験の結果

寝てから最初におしっこに起きるまでの時間はミニリンメルトを服用したグループの方が長くなっていて、これは統計学的に有意差ありと判定されています。

就寝後におしっこに起きるまでの時間が延長されているのですから、当然寝ている間におしっこに起きる回数も減るでしょうから、女性であっても夜間頻尿は改善されるはずです。もちろんミニリンメルトの主成分の働きによって夜間の尿量も減っています。

ミニリンメルトによる平均夜間尿量の変化の表

就寝してからおしっこに起きるまでの時間が延びて、尿量も減っているのですから女性に対してもミニリンメルトは充分に効果を発揮したと考えられると思うのですが、日本の処方薬の承認基準は血も涙もない厳しさでミニリンメルトを切って捨てます❗

ミニリンメルト投与群とプラセボ投与の比較

グラフの下の線がミニリンメルト投与群、上の線がプラセボ。どう見てもミニリンメルトを服用すると夜間におしっこに起きる回数が減っているように見えますよね、でもこれは統計学的にに有意差無し❗ってことになるのです。

データを統計学的に処理すること、これは科学では非常に重要であり、医学も科学の一分野であるのでしかたないことですね。しかし、海外では女性への処方がOKなのに、日本国内ではNG、この治験を設計した担当者さんのその後がちょっと気になります。

効果があっても副作用が問題、でもその副作用はそれほどリスキーではない

デスモプレシンに対する感受性には男女差があることが知られています。男性より女性の方が少ない投与量で効果が出るのです。子供のおねしょ(夜尿)に対して薬を使用するときはデスモプレシンがガイドラインによって第一選択薬になっています。それも推奨グレードは1Aです❗(夜尿症診療ガイドライン2016 日本夜尿症学会編集)。

ミニリンメルトの副作用として気を付けなければいけないのが、低ナトリウム血症。

低ナトリウム血症の症状は

  • 初期は倦怠感・頭痛・嘔吐悪心
  • 重篤だと脳浮腫・昏睡・痙攣

などがあります。これは水中毒とも呼ばれ、夏場にとにかく脱水や熱中症予防に水を飲め!飲め!との指示がメディアで喧伝されることによってミニリンメルトを服用していなくても、臨床医は遭遇します。

メディアが熱中症対策を伝えることが原因の「マスコミ頻尿」って知っていますか?

メディアが熱中症対策を伝えることが原因の「マスコミ頻尿」って知っていますか?

熱中症対策として十分な水分を摂ることは大切ですが、必要以上に水分を摂るのはよくありません。私たちの生きている情報化社会は、昔よりも有益な情報が手に入りやすい反面、間違った情報も得やすく、情報に踊らされる社会ともいえます。過度な熱中症対策情報によって頻尿になってしまうマスコミ頻尿について泌尿器科医が解説します。

この低ナトリウム血症は日本国内の治験の第Ⅱ相試験では男性183例中ミニリンメルト投与群で2例が報告されていますが、幸いにして症状は軽度であり臨床症状はありませんでした(ちなみに私は一例だけ、ミニリンメルトが原因であると考えられる低ナトリウム血症を経験しています)。

夜間頻尿が寝ている間に作られる尿量に左右されるのであれば、作られる尿量を減らして就寝中におしっこに起きる回数を減らそう、と直球勝負的な薬効が期待できるミニリンメルト、私はかなり好きな薬であり適応症例にはバンバン処方しています。

これだけ厳密に治験を行っても不信感を抱く人々

薬が承認されるには厳しい審査があることをお伝えしたい為に、夜間多尿による夜間頻尿治療薬であるミニリンメルトを例として挙げました。

世界中で当たり前のように処方されている薬、もちろん人種差などによって効果に違いが出ることは充分に予想されます。また副作用もある人種には出なくても、他の人種では頻回に出てしまい生命を左右することも考えられなくはありません。

処方薬は厳しい治験を乗り越えて、さらに市販後調査によって有効性と副作用が検証されています。必要以上に副作用を気にする必要は無いと私は考えます。

さて、2021年は世界中でヘンテコかつ新型コロナ感染症のワクチン接種が話題になっています。

おまけ:日本での治験が行われていないから使用は危険と考える人々

おまけです。

海外で使用されたワクチンをそのまま日本人に接種するのは危険じゃないか、との声も聞こえてきます。中には治験もしていないのにワクチン接種をするとは何事だ❗と怒っている医師をテレビで見かけたことがあります。

あのねえ〜、このワクチンはしっかり日本国内で治験が行われているんですけど⋯。

ワクチンは国内で治験されています

https://www.news24.jp/articles/2021/01/29/07812644.html

ちなみに1960年代に日本国内でポリオが大流行しました。当時日本では小児麻痺の原因となるポリオのワクチンが不足していて大混乱が生じました。東西冷戦時代真っ只中であった旧ソビエト連邦から、日本はポリオワクチンを緊急輸入したのです。詳しい話は全日本民医連のウェブサイトに掲載されています(https://www.min-iren.gr.jp/?p=3097)、この民医連って政治的にある方向に傾いているけど良いことしましたよね。やっぱり医師は今のような緊急事態においては政治的方向性を全面的に出すのはよろしくないと思います。

日本人には治験がおこなわれていない、治験が行われていたとしても数が充分では無い❗と喧伝している人々、特にワクチン忌避派とかワクチン慎重派と呼ばれる医師はこの歴史的事実をどのようにお考えなのでしょうか?

参考文献

  1. Nakagawa H, Niu K, Hozawa A, Ikeda Y, Kaiho Y, Ohmori-Matsuda K, Nakaya N, Kuriyama S, Ebihara S, Nagatomi R, Tsuji I, Arai Y. Impact of nocturia on bone fracture and mortality in older individuals: a Japanese longitudinal cohort study. J Urol. 2010 Oct;184(4):1413-8. doi: 10.1016/j.juro.2010.05.093. Epub 2010 Aug 19. PMID: 20727545.

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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